【コラム】医師としての倫理観と現場感 、これが経営企画医師の強みだ│天辰 優太

天辰 優太 平成医療福祉グループ 副代表

今回のゲストは、厚生労働省の医系技官を経て、日本を代表する病院グループで経営企画医師に転身した平成医療福祉グループの天辰優太医師。病院の経営企画を担ううえで医師としてのキャリアはどう生かせるのかについて議論してもらった。

中山 俊
天辰 優太

『最新医療経営PHASE3』2024年2月号(発行:日本医療企画)

目次

新規事業や研究、教育 臨床の枠を超えた活動

中山 経営企画医師という肩書ですが、どんな仕事をしているのですか。

天辰 抽象的になりますが、臨床の枠組みを超えた仕事をすることが、経営企画医師の役割で、私の現在の主な仕事は新規事業の立ち上げです。在宅診療所を今春開設する予定で、開業地や物件の選定、院長となる医師の採用、コスト管理など、プロジェクト全般をみています。そのほか、QIの作成と現場へのフィードバック、医師の人事なども担当しています。

グループに経営企画医師は数人在籍し、私のように経営全般を担う医師のほか、臨床研究や教育を担当する医師もいます。質の向上や人材育成は経営の重要な仕事と位置づけているからです。このように「経営」をベースに、それぞれがやりたいこと、得意とすることを活かした仕事が任されています。

中山 臨床医としての仕事もしているのですか。

天辰 時期によって変わりますが、現在は医師3、経営7という割合です。昨日は午前中、病棟のカンファレンスに参加後、回診を行い、その合間にオンラインで経営会議と在宅診療所の広報の打ち合わせに参加。午後からは、特別養護老人ホームで利用者さんを診て、夕方には経営関係の会議に参加して帰宅といった感じです。

中山 一般的に病院の経営企画部門は非医師が担当するケースが主流です。背景には、医師には臨床に専念させたほうが利益は上がるし、医師の給与に見合った成果を期待できるのかという懸念もあるからだと思います。医師だからこその強みはありますか。

天辰 たとえば、平成横浜病院では大学病院と提携協定を締結し、整形外科医局の医師を派遣していただくことになりました。その際の交渉も担当しましたが、医師としてのキャリアや病院の将来的なビジョンの話し合いなどは、医師だからこそ共感を得られた部分はあったと思います。ただ、ご指摘のとおり、近視眼的に考えると臨床に専念したほうが売上は上がるため、それを超えるバリューが生み出せるかは、問われるところだと考えています。

中山 「経営」というと外資系のコンサルティング会社がイメージされますが、そうしたコンサルタントと経営企画医師の最大の違いは「倫理観」にあるように感じます。医師は狭いコミュニティのなかで生きており、その多くは「患者に不利益を生じている」と思われるのを極力避けたいと考えています。そうした倫理観を持つ医師が経営企画を担当すれば、患者さん中心の医療を行ううえで価値を出せると思います。外資系のコンサルと比べて足りない部分を埋めるよりも、彼らにないものを活かすという発想が重要になりそうですね。

天辰 確かに、経営判断に迷う場面は多々ありますが、そのときは「患者さんのためになるのか」を指針にするようにしています。短期的な利益に走らず、地域や患者さんのためを思いながら経営企画を組み立てることに、経営企画医師の価値があるのかもしれません。

マクロの視点から 全体最適を考える

中山 初期研修を終え、厚労省で医療政策に携わった後、経営企画医師に転身された理由は何ですか。

天辰 診療報酬改定や医師の働き方改革などを担当し、さまざまな関係者と接するうちに、現場には厚労省からは見えない課題や事情があるのではないかと感じるようになりました。もともと大学時代に経営者と知り合う機会があり、経営に関心があったことに加え、現在のグループに厚労省時代の先輩がいたこともあり、新たな挑戦をしようと思い至りました。

中山 厚労省での経験で病院グループの経営に活かせていると感じるものはありますか。

天辰 高い視座で物事を考えられることだと思います。政策を立案する際は、まずマクロの視点からその政策を行う背景や課題、プレイヤーの意図などを汲みながら全体最適を考えていきます。これは、病院グループの経営においても共通していると思います。
また、病院にいると、医師は専攻医クラスでも「お医者様」として扱われますが、厚労省だと、新人の1人にすぎず、自然とチームで仕事をする意識が生まれます。そのため、職種間のヒエラルキー意識が全くないというのも利点かもしれません。

中山 厚労省では医師の働き方改革も担当されていましたが、政策をつくる側から遵守する側になって感じることはありますか。

天辰 時間外労働の上限規制の適応に関して、実際に現場に入ると、医師のやりがいへの配慮など想定していた以上に難しい面があります。私たちはグループ病院なので、ある程度スケールメリットを活かせますが、単独の病院ではもう少し周辺の病院間で協力し合える仕組みがあったほうが良かったなと感じます。医師の働き方改革は、今後も改善の余地はあると思います。

経営企画医師としては、働き甲斐のある職場環境づくりとして現在、医師を含めた多職種でのコミュニケーションが生まれやすく、かつリラックスできる場づくりに取り組んでいます。どうしても現場はストレスフルな環境になりがちで、緊張感から解放され、「ほっ」と一息つける空間も必要だと考えています。やりがいも重要ですが、「みんなとつながっている」と感じられる安心感も大事です。現場視点からインフラ投資を考えることも経営企画医師の重要な仕事の1つだと思います。

中山 現場の解像度が高いことは医師であることの強みですね。医師としてのキャリアは経営部門でも役立たせられることがわかりました。天辰先生のような人が民間病院で現場を積み、厚労省に戻ればよりより政策をつくれるようにも思います。本日はありがとうございました。


天辰 優太┃あまたつ ゆうた
平成医療福祉グループ 副代表


2012年、岐阜大学医学部卒業。岐阜市民病院初期臨床研修を経て、14年、厚生労働省老健局老人保健課主査、15年、保険局医療課主査、18年、さいたま市保健福祉局保健部地域医療課課長、19年、厚生労働省医政局医療経営支援課政策医療推進官。20年、平成横浜病院内科。22年、平成医療福祉グループ病院事業部経営企画医師。

(『最新医療経営PHASE3』2024年2月号 発行:日本医療企画)


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