加藤 良太朗 医療法人社団明芳会板橋中央総合病院院長
今回のゲストは、IMSグループの基幹病院である医療法人社団明芳会板橋中央総合病院院長の加藤良太朗先生だ。同晩で実践している取り組みをもとに、若い医師が安心して働ける環境をつくるために必要なことについて議論してもらった。
『最新医療経営PHASE3』2023年月6号(発行:日本医療企画)
安全な環境づくりに必要な 診療範囲と確認体制の確立
中山 加藤先生は「若い医師が安心して働ける環境づくり」に注力されています。これには、どんな要素が必要になりますか。
加藤 まずは安全な環境です。ここで言う安全とは、患者さんはもちろん、若い医師にとっても安全な環境です。これには、若い医師の仕事の範囲を決め、指導医がきちんとチェックする体制が必要です。たとえば、起こりやすい医療事故の1つにCV(中心静脈) カテーテルがありますが、若い医師1人、初期研修医とほとんど経験のない3年目医師のペアなど、技量や経験不足が原因というケースが少なくありません。そこで安全性の面から、当院では診療部長等の承認を得た医師しか1人ではできないという許可制を敷いています。
救急医療の現場も、研修医や専攻医にとっては経験を積む重要な機会ではありますが、質を担保するために、何かあればすぐに指導医が駆けつけてチェックする体制を徹底しています。「指導医に連絡しても来ない」といった話も聞きますが、当院ではそんな医師には辞めてもらいます。そのほか、毎日指導医が一緒に回診しています。こうした仕組みがあれば、医療事故を防ぎ、訴訟リスクもほとんどありません。
もっとも、安全なだけでは「安心して働ける環境」とまでは言えません。「安心」は安全の上位概念であり、「ここで働いていると成長できる」という希望を持てる環境づくりも必要だと考えています。
ホスピタリストの存在が 働きやすさと生産性を上げる
中山 範囲が決まっていればやりやすいですね。成長できるという希望を与えるために、どんな工夫をされていますか。
加藤 1つは、「何年か経験を積めば自分もあんな医師になれる」というロールモデルの存在です。そうなれるよう、院長である自分が研鑽するとともに、ロールモデルになり得る医師を集めたり積極的に管理職に登用したりしています。多様性も大事で、今年は若手の女性医師3人を部長職に昇進させました。もちろん、ロールモデルは完璧である必要はありません。日々勉強することは大切ですが、知らないことは聞けばいい。
日本人は総じて「人に迷惑をかけてはいけない」との思いが強く、「頼る」ことが苦手という人が少なくありません。こうした発想は、チーム医療にとって弊害になりかねません。一方、海外では「人に迷惑をかけなければ生きていけないから、その代わり自分も寛容になれ」と教えられます。そういう意味で、アンターの医師同士がオンラインで相談し合えるサービスは素晴らしいと思いました。
もう1つは、自分の得意分野に注力できる環境づくりです。具体的な取り組みとして、ホスピタリストの存在があります。ホスピタリストとは、簡単に言うと入院患者さんの全身管理を行う病院総合医で、当院では、総合診療内科の医師がホスピタリストとして病棟に常駐しています。手術室における麻酔科医をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。
この仕組みによって外科医は手術、内科医は全身管理と、それぞれ得意分野に専念できるようになります。その結果、整形外科では医師が約半数に減りながらも、手術件数はむしろ増えています。さらに言うと、ホスピタリストを通じて、診療科の垣根を超えて互いに頼りあう文化が醸成され、働き方改革の推進に不可欠なチーム医療の強化にもつながっていると思います。
中山 ホスピタリストを配置するとその分の医師の人件費が上がりそうですが、むしろ生産性は向上し、経営的にはプラスに働いているのですね。
加藤 そのとおりです。病院では「加算がつかないと人はとらない」といった発想をしがちです。背景には「人件費=コスト」という考え方があるのでしょう。しかし、これからは能動的な投資ととらえて、生産性を上げたり、付加価値をつけたりして収益を拡大する経営的な発想への転換も重要です。実際、診療報酬もこうした取り組みを後追い的に評価するという流れになっていますし、もっと人材に投資すべきです。
今回の働き方改革に関して付記すると、単純な「労働時間」よりも、もっと「ストレス」に焦点をあてるべきだったと思います。医療訴訟や苦手な仕事、診療科の垣根など、若い医師にとってストレスとなる要因をなくしていけば、おのずと働きがいのある職場環境ができあがるのではないでしょうか。当院では働き方改革を進めながら、より安心して働ける環境づくりを進めていきたいと思います。

加藤良太朗
医療法人社団明芳会板橋中央総合病院院長
1999年、東京大学医学部卒業 。帝京大学医学部付属市原病院麻酔科を経て、2001年、ワシントン大学医学部内科 。07年、同大学ロースクールを卒業し、ニューヨーク州弁護士資格取得 。同大学医学部内科講師およびセントルイス退役軍人病院のホスピタリスト科長を経て、13年、ピッツバーグ大学医学部集中治療科 。15年、板橋中央総合病院副院長兼総合診療内科主任部長 。2019年より現職 。
(『最新医療経営PHASE3』2023年6月号 発行:日本医療企画)
