医師の新しいキャリアや働き方にフォーカスする「D35」は、実際に医師の可能性を広げられている先生にインタビューし、可能性を広げた先にある景色、そして、そこに至るまでの葛藤や想い出についてお話を伺っています。
今回は、Antaa Academia 第6期に参加された大塚裕眞先生(総合診療科)のAntaa Academiaとの出会いとキャリアにまつわるお話を伺いました。
様々な立場の人と話ができる地域医療学講座のやりがい
大塚先生の自己紹介をお願いします。今の職場や診療科を選んだ理由なども教えていただければと思います。
はい、ありがとうございます。現在は、鳥取大学医学部の地域医療学講座で特命助教という役職で働いています。専門は総合診療医と家庭医療専門医ですが、大学での学生や研修医の教育や、県内のさまざまな医療機関との人材交流を通じての組織づくりに関わっていくことが主な仕事です。診療所で診療にも入りながら働いている感じです。
地域医療学講座では、どのような仕事をされているのでしょうか?
地域医療学の講座では、僕はどちらかというと医学生の教育が中心で、地域枠の医学生さんなどを対象に地域医療や総合診療の話をしています。専攻医プログラムももちろんあるので、その両方に関わるのですが、主体をどちらに置くのかで少し役割が変わってきている感じです。
地域医療学講座を選ばれた理由はなんでしょうか?
元々、学生教育や組織作りに興味があったのが大きいですね。総合診療のプログラム責任者と地域医療学の教授が同じ先生で、専攻医の頃からいつかは大学に戻って業務をしてほしいという話があり、ちょうど今年度から総合診療を育成するポストができるというタイミングだったため、今のポジションに就くことができました。
臨床現場で働いている医療者の意見も聞けますし、教育面では学生や研修医の意見も聞ける、大学内にいる先生方の意見も聞けるし、という形でいろんな立場の人と話ができるのはやりがいに感じていますね。
1週間のスケジュールはどのような感じですか?
基本的には週3日は近くの医療機関をいろいろ回っています。日野郡という人口1万人程度の地域にある3つの医療機関で月曜日、水曜日、木曜日にそれぞれ行って、診療をしつつ学生や研修医の教育に関わり、横につなぐ活動を行っています。
大学にいるのは週1日、火曜日だけで主に広報活動や研究などを行っています。例えば、最近は「カニジルラジオ」という広報活動にも参加しました。大学病院の広報向けのもので、いろんな先生や大学の関係者がパーソナリティとして出演していて、今回は総合診療医の育成の授業が始まったので、大学病院の病院長にお願いして出演させてもらいました。
3つのキャリアのターニングポイントは、マネジメントが鍵
キャリアのターニングポイントはありましたか?
振り返ってみたら何個かあって(笑)ライフラインチャート的な話になってしまいそうなのですが、3つくらいお話してもいいですか。
ありがとうございます。ぜひぜひ!
最初のターニングポイントは高校時代に生徒会長をしていたことがきっかけで、リーダーシップに興味を持ち始めたことです。その頃、どうすれば人がついてきてくれるのか、大きな目標を決めたりすることが難しい、と感じていたのですが、今考えるとその時からマネジメント業務をしていたような気がします。その経験が、全体としてどう動くかを意識するきっかけとなりました。
そうだったんですね。医者になろうと思ったのも、その頃の影響がありますか?
そうですね。医学部志望というのは、実は最初から明確ではなかったんです。高校2年生の時に生徒会長になったことがきっかけで、医療の道へ進もうという気持ちが芽生えてきて、医学部に行くなら全体を見れる方がいいなと考えるようになりました。
なるほど。 ふたつめのターニングポイントを教えてもらえますか?
ふたつめは、医学生時代ですね。医学生時代は「薬を使わずに人を治したい」という気持ちがあって、最初は精神科を志望していたんです。
そんな中、友達に誘われて地域医療研究部に入ったことが大きいです。部活動を通じて、医学部で勉強することって人を治すことに重点が置かれていることにしっくりこなくなってきました。人と全体をいろんな側面でみたいなと感じるようになり、総合診療への進路を決めたことがターニングポイントかなと思います。
地域医療研究部ではどんな活動をしていたのですか?
鳥取県の中山間地域の集落で、人口約50〜60人の地域を対象に、年間を通じて健康問題をアンケート調査し、訪問して話を伺いました。その課題をもとにフィールドワークを行い、最後には座談会を開いて住民の意見を収集するという活動を繰り返していました。これを3年間繰り返すPDCAサイクルを行っていました。
私が参加していた頃は、高血圧やコレステロールなど、基本的な健康管理に関する内容が多かったです。血圧測定や地域での運動について話したりしていました。
素晴らしい活動ですね!まるで疫学研究のようですね。
3つめのターニングポイントはいかがでしょうか。
専門医取得前後のことですが、北海道家庭医療学センターで半年ほど国内留学をさせてもらいました。そこでの経験が、高校時代の生徒会長の頃の思いと大きくつながる部分がありました。個々の努力に依存させない、組織全体で一人ひとりのレベルが一定程度まで到達できるシステムがしっかり整っているのが印象的でした。
各組織がどうありたいかを明確にし、そのためのマネジメントやリーダーシップがしっかりしていることが、非常に大切だと実感しました。
それまではなんとなく、総合診療医として地域で働きたいという思いが強かったんですが、
もう少し組織的に、しっかりとした支援ができるような教育センターを作り上げた方がいいのではないかという思いがあって、最終的には、これが今の大学内でのキャリアに繋がっている感じです。
なるほど。確かに大学の中にそのようなセンターがあれば、地域医療に貢献しやすくなりますね。
マネジメントスキルも、悩んだ時も、インプットとアウトプットのバランスが大切
これまで3回のターニングポイントがあったと思うのですが、悩んだ時はどのように意思決定されてきましたか?
そうですね、悩んだ時は他の人に相談することが多いです。最近わかってきたのは、相談相手は身近な人と、少し遠方にいて普段は会わないけれど助けてくれるような人にお願いして、2つの視点を持つことも重要だということです。
あとはインプットとアウトプットのバランスがうまく取れていないと、悩むことが多くなるなと感じています。インプットが足りないと思ったときは、読書や経験を増やすことが大切ですし、アウトプットが足りないと思ったら、とにかくやってみることが大切になってくると思います。そのバランスを見ながら、今はどちらをやったほうがいいのか、相談した時に聞いてみるようにしています。
確かに、インプットが足りないと自分が枯れていく感じがしますね。
そういう中で昨年度アカデミアに参加されましたが、どのようにして知っていただいたのですか?
たしかネットだったと思います。専門医を取得した後、マネジメントやリーダーシップのスキルを学びたいと思って、どこで学べるかうろうろと探していた時に、たまたま友達がFacebookか何かでシェアしていて「これ、すごく勉強になりそうだな」と思って参加しました。
知り合いの方がきっかけだったんですね。実際に参加されてどうでしたか?
非常に勉強になりました。当時働いていたところが田舎の診療所で、院長と私の2人だけの体制で運営していたので、マネジメントがかなり難しくて、色々問題がありました。業務が増大していく中で、看護師さんや事務員さんが不足していたり、行政との連携したほうがいいけど足並みがなかなか揃わなかったり、また大学の講座のことなど自分自身も色々と課題が重なっていた時期でした。
そこで、アンターアカデミアに参加して学んだことをすぐにアウトプットしなければならない環境にありました。
それこそ実践的に理論を試してみたりとか、ディスカッションで出てきた話からヒントをもらって取り組んだりしていました。一番記憶に残っている、伊藤羊一さんのライフラインチャートの講座を、近隣の病院で院内のビジョンを考える際にみんなで書き込んでグループワークして対話する形でやってみました。業務にかなり活きてきたと思います。
素晴らしい取り組みですね。印象に残った本はありますか?
どれも結構印象に残ったのですが、1か月に1回くらいはこの考え方を使っているという本は「武器としての交渉志向」です。中間管理職になってくると交渉ごとが増えてくるので(笑)どうしても自分の思いを伝えたい時もあれば、相手の意図を組みながら行動しなければならない時もでてくるので、この本が役立っています。
アカデミアに参加しての全体を振り返ってみてどうでしたか?
参加して勉強になったのはもちろんなのですが、かなりつながりを作らせてもらえたことがとても有意義でした。特に、同年代の先生方との交流が増えたのが良かったですね。最近でも、あの時に出会った方たちと再びつながることができて、思い出話ができるのが面白いですし、つながりが広がっていけている気がします。
今年に入ってからはマネジメントや組織運営を行う機会が増えてきて、アカデミアで得た知識を活かしながら、振り返ることができています。
最後に、若手医師の方々に伝えたいメッセージはありますか?
そうですね、臨床のスキルを磨くことはもちろん大切ですが、それだけでは限界がありますので、マネジメントや組織運営の知識も積極的に学んでほしいですね。
参加して勉強になったのはもちろんなのですが、かなりつながりを作らせてもらえたことがとても有意義でした。特に、同年代の先生方との交流が増えたのが良かったですね。最近でも、あの時に出会った方たちと再びつながることができて、思い出話ができるのが面白いですし、つながりが広がっていけている気がします。
今年に入ってからはマネジメントや組織運営を行う機会が増えてきて、アカデミアで得た知識を活かしながら、振り返ることができています。
今日は本当にありがとうございました!
大塚 裕眞┃総合診療科、家庭医
鳥取県鳥取市出身、鳥取大学医学部卒業後、総合診療・家庭医療専門研修プログラムを修了。「人を支える」という医師を志した当時から信念をもとに、鳥取県で誰でも安心して受診できる予防・診療・治療が一体となった医療機関(総合診療医センターやコミュニティ・ホスピタル)を目標に、鳥取県医療政策課、鳥取県医師会、国保系病院などとも連携しながら、総合診療医育成強化事業を展開中。
地域で臨床、地域活動、組織運営をしながら、後輩の総合診療医の育成や一般住民、医学生、研修医など様々なターゲットに向けて講演なども行っている。
鳥取大学医学部 地域医療学講座
https://cbfm.tottori.jp/
鳥取の総合診療専門医を育てるプログラム
https://cbfm.med.tottori-u.ac.jp/sougousinryou/