医師の新しいキャリアや働き方にフォーカスする「D35」は、実際に医師の可能性を広げられている先生にインタビューし、可能性を広げた先にある景色、そして、そこに至るまでの障壁や葛藤についてお話を伺っています。
今回は、医師データサイエンティスト・エンジニアとして働く羽山陽介先生(リアルワールドデータ株式会社、RWD事業部)にインタビューを行いました。後編では、羽山先生がリアルワールドデータ株式会社でデータサイエンティストにキャリアチェンジし、医療現場でのデータ活用や、エンジニアリングの技術を通じた医療DXへの貢献について、じっくりとお話を伺いました
>>前編『小児循環器専門医から研究、そして薬剤疫学の道へ』はこちら
医療現場からエンジニアへ、データ活用の挑戦
現在、リアルワールドデータ株式会社でデータサイエンティストやエンジニアとして活躍されていると伺っていますが、このキャリアに至るまで、どのような経緯、気持ちで歩んでこられたのでしょうか?
リアルワールドデータ株式会社は、京都大学薬剤疫学分野の教授が設立した会社で、京都大学への入学前からその会社を紹介され、オリエンテーションを受けました(笑)。リアルワールドのデータをプログラミング言語で「見える化」するというミッションを与えられ、これが自分に合っていたんです。プログラミングの経験はありませんでしたが元々あったシステムを改築する過程で力がついていきました。よくよく振り返ると、倉敷中央病院にいたときも国循にいたときも診療科内でデータベースを作っていたんですよね。
ご自身でデータベースを作っていたんですか?
はい。倉敷中央病院では腎生検のデータベースや、循環器のレポートシステムをFileMakerで作ったりしていました。国循でも、カテーテル検査データを専用ソフトから取り出し、FileMakerで検索できるようにするなど、コツコツとデータを扱っていました。振り返ると、病院内で眠っているデータを整理して、いざというときに使えるようにするという思考があったんだと思います。当時は一つの病院で完結する規模の「医療DX」でしたが、業務改善につながる取り組みです。そういった分野に携わるのが自分に合っていると感じながら病院勤務をしてきたのだと思います。
ノンメディカルの視点は、ビジネスでは不可欠
医師の中でエンジニアとしても活躍される方はまだ多くはないという印象がありますが、先生がエンジニアとしてもやっていこうと思われたきっかけを教えてください。
職業的には、医師でもエンジニアでも大きな違いはないと思っています。ただ、アナログが故に未解決の問題は医療現場にまだまだ多く、エンジニアとしてのスキルを磨けば解決策を提示できるのではないかと考えるようになりました。病院を訪問して「こういうことを解決したいと思いませんか?」「何か不足している点はありませんか?」と現場のニーズを聞くと、まだ多くの医師や看護師が手作業でデータを扱っていることがわかります。データをもっと簡単に扱えれば、業務が効率化できるはずです。1年ほどエンジニアとして関わる中で、実際にシステムを作り、「こんなシステムがあれば解決できますが、どうでしょうか?」と提案することで、病院の枠を超えた解決策に繋がるのではないかと考えるようになりました。
医療業界や医療のバックグラウンドがないエンジニアの方でも、御社で共に活躍できるイメージはありますか?また、そうした方々と一緒に何か取り組む可能性はありますか?
ノンメディカルの方々とのセッションは非常に重要だと思っています。病院では患者さんの治療が最優先ですが、企業では収益が最も重要なため、発想が全く違います。ノンメディカルの方々は「これが会社にとってメリットになるか、ビジネスになるか」という視点で物事を捉え、外部環境の分析もしてくれるので医師にはない視点で非常に視野が広がります。彼らとのコミュニケーションを通じて、全く異なる発想を得たり、新しい解決策を見つけることができるので、とても刺激になります。一方で、私は医師として病院の内情をよく知っていますが、意外にも病院はデジタルに強くありません。エンジニアやノンメディカルの方が持っている「医師なら簡単にできるはず」というイメージは、実際とは大きく異なります。むしろ、病院内にはまだアナログな部分が多く、そこに未開拓のチャンスがあると感じています。「ここがブルーオーシャンじゃないですか」という提案をしながら開発をするという橋渡し役となって、デジタル化を進めることができるのはとても面白いと感じています。
エンジニア志望の方へのメッセージ「とにかく飛び込め」
医師でエンジニアを目指す方に向けて、技術やスキルをどう磨かれてきたか教えていただけますか?
正直なところ、私はほとんど独学で技術を身につけました(笑)。問題が出てきたら自分で調べて解決して、もっと良い方法がないか自分で探してみるというやり方でしたね。もちろん、人に聞くこともありましたが、新しい分野だったので、聞いても解決できないことも多く、結局自分で試行錯誤して学んでいくことが多かったです。特に少人数で進めている環境で、専門家も少なかったので、聞くよりは自分で手を動かして独学で解決する方向に進んだのかもしれません。
独学だと、企業のサービスや事業に関わっていくプロセスに不安を感じる方がいるかもしれません。医師でエンジニア志望の方が、独学から企業のフィールドに飛び込む際のギャップや不安はどのように解消すればよいでしょうか?
医師でキャリアチェンジを考える方は、少し浮世離れしている印象があります。特に、会社で求められていることや、医師のスキルが必ずしも役に立たないという現実を理解せずに応募する方も多いです。医師はあまり挫折を経験しないので、「水が合うか」でキャリアの方向性を決めることがあります。実際にエンジニアなどの新しい職種に飛び込んでみて、水が合うかは重要なファクターだと思います。自分の役割があり、楽しいと感じられるなら続けられますし、もし「少し違うな」と感じたら別のキャリアに挑戦すればいいんです。開発や設計、サービス構築など、まずは一度飛び込んでみて、自分に合っているかどうかで決めればいいと思います。「合わなければ考え直せばいい」くらいの気持ちで挑戦するのがちょうどいいと思います。
一方で、医療のバックグラウンドはなく、エンジニアとして初めてメディカル領域に挑戦したい方々へのアドバイスはありますか?
JMDCグループやリアルワールドデータ株式会社には、初めてチャレンジするのに適した環境が整っています。例えば得意な言語が異なるなどがあったとしても、異なる分野の知見が融合する新しい場所になればいいと思います。JMDCグループやリアルワールドデータ社にはこれまでに蓄積されたデータやノウハウが豊富にあるので、おすすめできる環境だと思います。
決断は環境と学びで、迷ったらまず飛び込む
これまでのキャリアで悩まれた時、どのように向き合って解決してきましたか?
先ほど話した通り、私の場合、キャリアチェンジのタイミングでは、残るか外に出るかの選択をしてきました。キャリアチェンジの1年前から話を聞きに病院を訪問していましたね。自分の志向に合う環境や場所を探すため、実際に足を運んで相談することを惜しみませんでした。
キャリアに悩んでいる読者にメッセージをお願いできますか?
選択が正しかったかどうかは、長い人生の中で判断されることです。医師としてのキャリアを歩んでいる方々は、もともと才能があるので、少し足踏みする期間があっても深刻に悩む必要はないと思います。自分に合いそうだと思うものには、とにかく飛び込んでみるのがいいでしょう。新しい環境に挑戦して合わなければ、また別の環境を探せば良いのです。エンジニアなどの医療系のビジネス職種への転職を考えている方には、働く環境は整っています。たとえ合わなくても、医師として働く道は残されているので心配はいりません。一度飛び込んでみて、しばらく新しい環境を試し、自分を見つめ直す時間を持つことも良いと思います。
羽山先生は何を基準に「水に合うか」を判断されているのでしょうか?
私の場合は、飛び込んだ環境に良い人々との出会いにこそ恵まれましたが、その環境でやっている内容が自分にとって楽しいか、勉強になるか、自分の役割を見つけることができそうか、で決めることが多かったですね。自分が成長できそうだと感じるかどうかが大きな基準でした。そんなふうに思える環境を探したんだと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
羽山陽介|リアルワールドデータ株式会社、RWD事業部
平成19年京都大学医学部卒業。倉敷中央病院にて初期・小児科後期研修後、国立循環器病研究センター 小児循環器内科、同研究所、京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 薬剤疫学分野を経て、現在のリアルワールドデータ株式会社でエンジニア・データサイエンティストとして従事。