蒲池 健一 東京品川病院院長
今回は、全国で24の病院を展開するカマチグループの1つ、東京品川病院の蒲池健一院長に、救急医療における医師のマネジメントや現場のモチベーションを高めるための工夫などについて話を聞いた。


『最新医療経営PHASE3』2024年9月号(発行:日本医療企画)
入院受け入れを含めて 救急は全診療科で分担する
中山 医師の働き方改革の影響を最も受けるのは、救急医療の現場でしょう。東京品川病院は24時間365日体制の救急医療に定評がありますが、現場の負担軽減等の工夫はされていますか。
蒲池 特定の診療科に負担が集中しないように調整しています。当院の救急車の受け入れ台数は年間約9000台、1日平均では25台程度です。そこからの入院率は約30%。つまり、救急経由で1日7~8人の患者さんが入院されるわけです。
当院では、24時間体制の救急外来はもちろんのこと、入院患者の受け入れに関しても全診療科で分担しています。具体的には、毎朝、全診療科の医師が集まって救急経由で運ばれてきた患者さんをどの診療科で受け入れるのが適切かを話し合って決めています。最終的な判断は、院長である私が下しています。
なぜそんなことをするかというと、たとえば、「肺炎か心不全か」という患者さんを入院させるとなった場合、呼吸器内科と循環器内科で押しつけ合うようなことがあるからです。そこで、全診療科で話し合ったうえで、特定の診療科に負担が集中しないように調整しています。この仕組みには、若手医師の負担軽減という利点もあります。私自身も経験がありますが、夜間に搬送されてきた救急患者さんを入院させたら、翌朝、「なぜ入院させたのか」と上司から怒られることがあります。こうした経験をした若手医師は「怒られるのは嫌だ」という意識から、救急患者さんの受け入れに二の足を踏むかもしれません。もっと言うと、「救急医療は嫌だな」と敬遠してしまう恐れもあります。
一方、院長が振り分けるスタイルだとこうした問題は生じないので、若手医師は救急患者さんを受け入れることができます。
中山 確かにこの仕組みだと、若手医師は迷うことなく救急患者さんを受け入れられますね。若手医師について言うと、今まで以上に慎重に職場を厳選する傾向がありますが、採用について特別な取り組みをしていますか。
蒲池 良いところも悪いところも隠さずに、きちんと開示しています。たとえば、教育体制や福利厚生、さらには医局の風通しの良さなどを魅力として発信する一方で、当直等かなり厳しいということも伝えています。
一昔前は“ノリ”で診療科や職場を決める人もいましたが、現在は、徹底的に情報を収集し比較検討したうえで決めるのが当たり前で、また、SNSの横のつながりで内部の情報も集めやすくなっているので、労働環境等についてはきちんと開示したほうが信頼感も増します。
ただ、労働環境は厳しいけど組織の風通しや人間関係は良好であるなど、何かしらの「売り」はないと厳しいでしょう。「尖がっている」ポイントがあれば、きっとそれに刺さる人はいると思います。「尖がっている」部分をいかにつくり、それを打ち出すかが重要だと考えています。
生き残る者は 変化できる者である
中山 蒲池先生のSNSを見ていて感じるのは、福利厚生に力を入れていることです。さまざまな差し入れをするなど、現場の職員を慰労されていますね。
蒲池 救急医療の現場は本当にきついので、差し入れを持っていくことで少しでも和めばいいなと願っています。自分が現場に持っていくことでコミュニケーションも図れますし、感謝の言葉を直接伝えることもできます。高いものでなくても、「院長が持ってきてくれた」と、結構喜んでもらえます。
中山 勉強になります。今後の病院経営のあり方については、どのように考えていますか。
蒲池 私は、ダーウィンの「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもなく、唯一、生き残る者は変化できる者である」という言葉が好きで、病院経営もこの言葉どおりだと思っています。たとえば、働き方改革の流れも時代の変化のその1つです。「ゆとり世代やZ世代は・・・・・と愚痴をこぼす前に、若い世代が「ついていきたい」と思われる病院に変わっていかないといけないと考えています。「俺たちは先輩の背中を見て育った。お前もそうしろ」では、若い人たちは絶対についてきませんよ。
中山 若い医師に苦言を呈するよりも、まず、自分たちから変わる。非常に重い言葉であり、感銘を受けました。本日はありがとうございました。

蒲池健一
東京品川病院院長
久留米大学医学部卒業後、福岡和白病院、福岡新水巻病院、武雄市民病院、国立病院機構 東京医療センター、新小文字病院、東海大学医学部付属病院等を経て、2015年、原宿リハビリテーション病院、五反田リハビリテーション病院副院長、16年、新久喜総合病院副院長、17年、医療法人社団埼玉巨樹の会理事長、18年、東京品川病院副院長、19年、東京品川病院院長、22年、社会医療法人社団東京巨樹の会理事長。
(『最新医療経営PHASE3』2024年9月号 発行:日本医療企画)
