【コラム】応援し合える仲間づくりが経営者としてのやりがい │北城 雅照

北城 雅照 医療法人社団円徳慶友整形外科脊椎関節病院理事長

今回のゲストは、医療法人社団円徳慶友整形外科脊椎関節病院の北城雅照理事長。病院勤務医から事業承継し、病院のオーナーに転身するという異色のキャリアをなぜ選択したのか。また、どんな病院をめざしているのかなどについて話を聞いた。

北城 雅照
中山 俊

『最新医療経営PHASE3』2025年3月号(発行:日本医療企画)

目次

医師の正当な評価が必要 問題意識から病院を事業承継

中山 北城先生と最初にお会いしたのは約9年前、偶然カフェで友人の医師から紹介されたときだったと思います。その後、若手医師たちの勉強会に参加してもらって以降、おつき合いをさせてもらってます。当時は勤務医でしたが、その後、病院を事業承継され、現在は医療法人社団円徳の理事長として同じ建物内に法人の異なる病院と診療所が同居する、日本初の医療モール併設型の慶友整形外科脊椎関節病院(55床) や診療所を経営されています。勤務医がいきなり病院オーナーになるというのは稀なケースですが、なぜこうしたキャリアを選択したのですか。

北城 もともと、開業は考えていなかったのですが、医師のキャリアについて1つの問題意識を持っていました。手術の技量が報酬や待遇に正当に反映されないことです。手術がうまい医師もそうでない医師も、給与はほとんど変わらないという病院が大半です。

バイトをかけもち、多くの現場を見るうちに、この状況を改善したい。それには、自分がオーナーとなり「病院を経営するしかない」と思うようになりました。そんなことを話していたからか、バイト先に出入りしていたコンサルタントから「後継者のいない病院を承継しないか」ともちかけられました。中山先生と出会ったのはこの時期です。病院を買って大きなリスクをとるべきかを思い悩んでいたところ、勉強会に参加し若手で勢いのある医師が大勢いることに驚かされ、こんなチャンスはもうないかもしれないと、病院のオーナーになる決意をしたのです。

中山 経営者として医師の「働き甲斐」についてはどのような配慮をしていますか。

北城 1つは、手術に対するインセンティブをきちんと設け、困難な手術をすればするほど報酬は増えるようになっています。こういうと専門性第一ととられそうですが、経営者としては人間性を最重視し、人柄の良い医師しか採用しないようにしています。それが結果的に職種を問わず互いに尊重し合える、働きがいのある職場環境につながっているのかもしれません。

中山 手術に対する正当な評価は医師として魅力だと思います。人柄の良い医師が多い環境も素晴らしいですが、どのようにそうした医師を集めているのですか。

北城 1つは、医局に所属している医師であればその人柄については漏れ伝わってくるものです。また、コロナ禍では、自院の都合でアルバイト医師の受け入れを中止する医療機関が増えました。

一方で私たちは、むしろ行き場のなくなった医師を積極的に受け入れました。結果、多くの医師との信頼関係が構築でき、コロナが5類に移行した後も「ここで働きたい」と言ってくれる医師が増え、ひいては、人柄の良い医師に来てもらえるようにもなったのです。

クラスターで経営危機に 仲間の姿勢を見て奮起する

中山 病院の経営者になられて約6年、もっとも苦しかったことは何ですか。

北城 やはり、コロナです。実はコロナ禍でも当初、順調に手術患者さんは増え続け、2022年夏前には病床稼働率はほぼ100%になっていました。しかし、その翌月に院内でクラスターが発生し、2週間病床を閉鎖し手術もできなくなりました。クラスター収束後も数カ月は稼働率50%程度に低下。病院の赤字を診療所で補っていましたが追いつかず、そのときは「潰れるかもしれない」と思いました。

ただ、現場が動揺してしまうとさらに事態は悪化するので、悟られないよう明るくふるまうとともに、キャッシュを確保しボーナスも支給しました。

経営的には本当につらい状況でしたが、当院の理念に共感して頑張ってくれているスタッフや元気になっている患者さんなど、目の前にいる人たちの前向きな姿勢に励まされ、何とか危機を脱することができました。結論めいた話になりますが、こうした仲間が増えることが経営者としてのやりがいであり、モチベーションの源泉になっているのだと思います。

マネジメントに不可欠な 存在意義の言語化と明示

中山 経営者になるにあたって「経営心理士」の資格も取得されましたが、この学びを通じて役に立っていることはありますか。

北城 経営心理士は、経営やビジネスを心理学の観点からとらえた学問で、「人を理解する」ことに重点が置かれています。これを学んでよかったことの1つは、経営において最も重要な「人」についての理解が深まったこと。もう1つは、自分を深く知ることで、本当に自分がやりたいことを言語化し、それをめざすべき方向として理念に落とし込めたことです。自分たちの存在意義であり、提供する価値の源泉となる理念を明示できたことは、それに共感できる仲間を集めるための採用やマネジメントのしやすさにもつながっています。

中山 自分のやりたいことや組織の存在意義を理解し行動してもらうためには、それをきちんと言語化した理念は非常に重要ですね。

北城 経営者とは、舞台の脚本家だと考えています。演じてくれるのがスタッフで、鑑賞されるのが患者さん。経営者とスタッフ、患者さんが幸せになることができる、一緒になってそんな環境をつくるのが理想で、今後も、そのための努力を続けていきたいと思います。

中山 まさに「患者よし、医療者よし、地域よし」の三方良しとなる病院経営の理想形ですね。私も経営者として非常に勉強になりました。

本日は、ありがとうございました。

北城 雅照
医療法人社団円徳慶友整形外科脊椎関節病院理事長


2009年3月、北里大学医学部卒業。同年4月、同大学病院臨床研究センター入職、11年4月、慶応義塾大学整形外科学入局。18年4月、医療法人社団円徳(旧:新潮会)理事長に就任。19年、足立慶友整形外科、慶友整形外科脊椎関節病院(旧足立慶友リハビリテーション病院)開業。

(『最新医療経営PHASE3』2025年3月号 発行:日本医療企画)


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