1歳の子育てと病児保育事業の起業・経営。すべての経験を点と点で繋いでいく 後編│株式会社グッドバトン│園田正樹 先生

医師の新しいキャリアや働き方にフォーカスする「D35」は、実際に医師の可能性を広げられている先生にインタビューし、可能性を広げた先にある景色、そして、そこに至るまでの障壁や葛藤についてお話を伺っています。

今回は産婦人科を経たのち、安心して産み育てられる社会を目指し事業活動を行う産婦人科医の園田正樹先生(株式会社グッドバトン 代表)にインタビューを行いました。

後編では、園田正樹先生のこれからの活動について、じっくりとお話を伺いました。

>>前編『患者をこえて、その家族の影響を思う。産婦人科医を選んだ理由』はこちら

目次

1歳の娘の子育てと仕事の両立の難しさとジレンマ

Antaa 西山

大学院に行き、そして起業と数年間の間、かなりスピード感のある生活をされていたかと思いますが、プライベートや生活はどのように過ごされていますか。

園田先生

いま1歳1ヶ月の娘がいるのですが、親になってみて、本当にみんなよくやっているよなというのが素直な思いです。

なかでも、僕はかなり恵まれていると思っています。うちの会社の働き方はリモートワークなので、子どもの送り迎えなど子育ての時間を、比較的持ちやすい状況です。ただし、それでも夫婦2人で働いていると、うまく回らないことの方が多いです。

正直、今の世の中で、家族だけで仕事と育児の両立をするというのは、幸運にもおじいちゃんおばあちゃんが近くにいるとか、お金に余裕があって家政婦さんが泊まってくれているとか、そういった特別なものがない限り、実現不可能だなと感じています。

少し前に「保育園落ちた日本死ね」みたいなツイートが話題になったこともありましたが、そう思っても全然おかしくないというか、なんで今までみんなもっと声を上げなかったんだろう、今までみんなどうやってやってきたんだろう、と感じる要素が非常に多いです。

園田先生

そこで、自分はどうしたらいいのだろうというのを考えていて「社会全体で子育てをしていく仕組みづくり」が肝だと思っています。先ほど話に上がった病児保育もその一つだと思っていますし、ベビーシッターをリーズナブルに利用できるような経済的な支援、待機児童問題など、もっともっといろいろなものを社会が用意し整えなければいけないと思っています。

でも、自ら解決しようと仕事に打ち込むと、自分の家庭をないがしろにせざるを得ないみたいなジレンマもあります。妻に言われて本当にその通りだなと思ったのは「あなたは子育て支援の事業をやっているのに、自分の家の子育ては全然できてないじゃん」と。グサッと刺さることを言われ、理想と現実のギャップに日々苦悩しながらやっているところです。

起業などリスクを取るには良い職業「医師」

Antaa 西山

ご家族のお話も出ましたが、キャリアを医師から起業家へ変える時、収入や生活費などの不安はありませんでしたか。

園田先生

お金については正直全然心配しなかったというところがあります。医者は、起業や違うことにチャレンジしやすい職業だと思います。比較的高収入なバイトという選択肢があるので、週1バイトさえすれば一応食べていけて、経済的な不安はありませんでした。

また医師としてのキャリアを考えても、もともと大学の教授や病院の部長になりたいという欲はありませんでした。いざとなったら開業して、自分のやりたい医療を地域医療としてやるのもありだなと思っていて。そういった考えからキャリアに関してはなんとでもなるなと思っていました。

妻に関しても、お金より好きなことをやることへの理解がある方だったので、大丈夫でした。また妻も医療者ですが、私の会社がうまく進まないときに、大学を休学してうちの会社で4年半も働いてくれた経験があり、医療、事業のいずれの観点でも話しができ、僕の一番の相談相手です。それはとてもありがたい環境だと思っています。

起業から7年。点と点を結ぶ、事業の展望

Antaa 西山

これまでのお話を聞き、さらに未来のお話についても伺ってみたいと思うのですが、数年後を想像したときにどうなっているかについて伺いたいなと思います。

園田先生

いま会社は7年目になっているのですが、振り返ると、ここまでは自分自身のレベルアップに費やした期間だったなと思っています。その歳月のなかで仲間が増え、できることも増えてきて、病児保育事業の、フレームができてきました。

「妊娠期からの切れ目ない子育て支援をしたい」というのが事業においての1つのテーマでして、これまでは、病児保育事業を中心にやってきましたが、今後は産後ケア事業を始めようと考えています。点と点をつなげていけそうな可能性をすごく感じています。

園田先生

例えば、PHR(パーソナルヘルスレコード)の大元だと思うのですが、電子母子手帳の領域が、なかなか広がっていない。そこを僕らが持っているサービスで点と点をつなぎながら広げていきたいと考えています。

一度データを入れれば、しっかり記録され、いつでも活用できるというのがデジタルの強みで、例えば毎回紙で書いていた基礎疾患、既往歴、アレルギー、ワクチンを何回打っているか等の情報、それから既に僕らがサービスとして持っている電子母子手帳といったものを線で結んでいく。

そうなると、「出産おめでとうございます」となった後、そろそろしんどい時期じゃないですか「産後ケア」を使ってみませんか。そして「1歳のお誕生日おめでとうございます」となったら、「ではそろそろMRワクチンを打ちましょうね」、「ワクチンの予約はこちらの医院で予約できますよ」といったように、既に僕らが持っているデータを用いて、サービスとして、コンシェルジュ的にしっかり人生とヘルスケアの伴走者になっていく寄り添い方ができるんじゃないかなと思って、わくわくしているところです。

「Connecting The Dots」振り返った時につながっていく小さなアクションたち

Antaa 西山

最後に、キャリアに悩んでいる若手の先生に向けて、園田先生から熱いメッセージをお願いします。

園田先生

医者は最強の職業の一つだなと思っていて、自分の中に課題感を持っているのであれば、ぜひ身近なことからでいいのでやれることを一つずつ取り組んでもらえるといいんじゃないかなと思っています。

例えばそれが地域に出ていろいろな人と話をするだけでも、その人達が困っていることに気づくことがある。それに対し自分の医療の専門性で回答できることも多いと思います。

実際に僕の場合は、自分の中に課題感を持ったときに、ユーザーインタビューをひたすらするというのがアクションでしたが、やっていく中で次に何をしたらいいんだろうみたいなところがどんどん膨らんできました。

園田先生

ただ、医者として、いま毎日行っている診療がとても素晴らしいことだと思いますし、それだけやっていたとしても十分だと思っています。
でも専門医になって、自分の中にこれでいいんだっけと疑問を持つならば、きっとまだできることがあると思っているわけですから、はじめから大きいことをやろうとせずにできることをアクションしてもらえればいいんじゃないかなと思ってます。

また余談ですが、僕はスティーブ・ジョブズの「Connecting The Dots」の話がすごく好きで、僕自身も”やってきたことが後から振り返ったらそれが線になっている”というのを実感します。

なにか未来に「こういうことをしたいんだ」というような大きな展望がある方はとても素晴らしいと思うのですが、それをできる人は少ないと思います。そうではなく、自分が「今やりたいな」とか「できることはなんだろうな」「じゃあやってみよう」という小さな小さなステップをぜひやってもらえれば、それが後で振り返ると実はつながっていて、あなたにとってステキな未来につながっていくんじゃないかなと僕は思っています!

>>前編『患者をこえて、その家族の影響を思う。産婦人科医を選んだ理由』はこちら

園田正樹|産婦人科医・起業家
新潟県糸魚川出身、佐賀大学卒業後、東京大学産婦人科学教室を経て、安心して産み育てられる社会を実現したいと考え、2017年にConnected Industries株式会社(現株式会社グッドバトン)を創業。2020年4月、病児保育予約サービス「あずかるこちゃん」をリリース。事業以外にも、病児保育の調査研究に取り組む。

グッドバトンHP
https://goodbaton.jp/
株式会社グッドバトン CEO 園田正樹 X(Twitter)
https://twitter.com/masaki_sonoda
【クラファン挑戦中】 産後ケアへつなぐためのサービスをつくりたい!
https://readyfor.jp/projects/goodbaton

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