臨床と経営コンサルを両立させる働き方、その原動力は医療現場への違和感 | エヌエスパートナーズ株式会社 松浦泰史先生

医師の新しいキャリアや働き方にフォーカスする「D35」は、実際に医師の可能性を広げられている先生にインタビューし、可能性を広げた先にある景色、そして、そこに至るまでの障壁や葛藤についてお話を伺っています。

今回は、泌尿器科の専門医を取得した後、外資系コンサルティングに転職し、現在は医療コンサルティングを行うエヌエスパートナーズ株式会社にて勤務する松浦泰史先生(35歳)にインタビューを行いました。
医師免許を取得後、初期研修を行うなかで浮かんだ「何をしたくて、医者になったんだっけ。」という思い。高齢者の延命治療等に伴う社会保険制度の持続可能性への危機感を抱えながら、凝り固まったレガシーにやるせなさを覚える一方で、膨らむ他業種への憧れ。飛び出したからこそ見えた「医療コンサル」の世界での“医師の可能性”を経験も合わせてお話を伺いました。

目次

松浦泰史先生のキャリア

26歳 京都府立医科大学卒業
26歳 名戸ケ谷病院 初期研修
28歳 東京慈恵会医科大学附属病院 泌尿器科として入職
30歳 JR東京総合病院
31歳 国立成育医療研究センター
32歳 東京慈恵会医科大学附属 柏病院
33歳 アーサー・ディ・リトル コンサルタント
34歳 エヌエスパートナーズ 事業サポート部

初期研修から積み重なる医療業界への違和感から、転職のモチベーションに

医師として勤めながら、医療コンサルの仕事へと転職した松浦先生。医師としての可能性を拡張するようなキャリア展開をされていると感銘を受けましたが、どうして転職をしようと思ったんですか。

転職は、やはり、徐々に転職へのモチベーションが高まり、数年かけて決意をしました。その始まりとなったのが、初期研修のときに抱いた医療業界の違和感ですね。建前としては、「どんどん救急車受け入れて、人助けをしますよ!」という姿勢でしたが、一方で、「人間は生き過ぎたのかもしれない」と考えてしまったり、高齢の患者さんへの治療方法では「これって必要なことなのかな」と迷うこともあり、社会保険制度の持続可能性への不安感や脆さなども感じていました。

「なにがしたくて、医師になったんだっけ」と、自分自身についても立ち返って考えることもあり、後期研修の折り返しの頃には、4年経っても変わらない環境に「何か変えないといけない気がするけど、何をすればいいかわからない」と悶々としていました。

また同時に、転職への思いはさらに強まっていて、他業種への興味も湧いてきていました。
ただ、医師であり厚生労働省、つまり、他業界で働いている兄から「他業界いいと思うけど、専門医あった方が説得力が増すよ」と言う話を聞き、まずは、泌尿器科の専門医になることに専念することにしました。

その後、転職エージェントに相談をし、なかでも外資系戦略コンサルを選んだのは、俯瞰的にビジネスの勉強が出来るのではないかと考えたからです。一方で単純に「なんかかっこよさそうやん」と思った部分も多少あります(笑)

医師のキャリア選択と、医療コンサルの仕事

医師として、まさに新たな扉を開いた松浦先生。これからのお話をより深く理解するためにも、医療コンサルという業界や仕事についてご紹介いただけますか。

はい、ありがとうございます。早速ですが、医師の働き方を図で分類させていただきました。主に、「病院・クリニック」「企業」「行政」という大きな枠組みがあるかと思いますが、僕が現在勤務している会社は、コンサルティングを行う「企業」の中で、「医療コンサル」の分類に当たります。医療コンサル」以前は、「戦略コンサル」での勤務経験もあります。

「戦略コンサル」では、例えば、会社の全ての事業のポートフォリオを作ったり、会社としての方向性を決めたり、経営層に直接アプローチするのに対して、「医療コンサル」では、上流から下流まで全般的に行っていくイメージの仕事です。

「医療コンサル」については、さらに細分化でき、僕が勤めるエヌエスパートナーズ株式会社では、「事業継承M&A」と「経営サポート」を主に行っています。経営者の高齢化によって、病院の後継がいなかったり、譲渡しの相談をいただいたりすることが多く、そこのM&Aのサポートをさせていただきながら、そのまま経営のサポートもさせていただくという事例が多く、地域病院の機能を維持しつつ、地域医療に貢献することをめざしています。
また、コンサルを行うなかで、やるべきことが見つかっても、まとまった資金がなく、断念せざるを得ないというケースが多々あるのですが、上場企業だからこその資金力で、そこをフォローしつつ、経営を資金面も含めてサポートできるのが僕らの強みの1つです。

松浦泰史先生の1週間、医師とコンサルのハイブリット型で医療経営課題を解決

図解で大変わかりやすく教えてくださり、ありがとうございます。さすがコンサルの方だなと感銘を受けました…!ここからさらに踏み込んでいければと思いますが、松浦先生は実際どんな働き方をされているんですか。

とある1時期の例ですが、医療法人を3社ほど担当しながら、新たな商談などにも参加しています。ただ、働き方については、会社で僕だけが医師ということもあり、僕も他の方も正解がわからない状態なので、探り探り働いています(笑)

医療法人Aは、大阪の病院ですが、医師としても勤務していて、自分が中に入りながら、経営を変えていくような動き方をしています。

最初病院に訪問した時に、80代のマイナー科の医師が救急車を診ている状況に衝撃を受けました。60歳以上の高齢の医師も多く、急性期の患者さんも積極的に受け入れている印象で、職員は急性期への”誇り”を感じているような気がしました。一方で周囲の医療状況を考慮すると、医療リソースの充実した急性期の基幹病院が乱立しており、地域のニーズともマッチしていない印象でした。
病院として生き残るためには、急性期病院と連携を取りながら回復期の患者さんを積極的に受け入れる必要があると感じました。

いざ回復期の患者が紹介されると、急性期治療を行っていた先生の中には不満を感じておられる方もいらっしゃいましたが、徐々に自分の病院の”地域に対する役割”実感を得ていただけたのか、そのような声はなくなっていきました。

医療法人Bは、経営に課題がある病院で、人事や労務問題、コスト削減、患者増加への戦略立案など経営改善に直結するようなサポート業務をまるっと行っています。

最後に医療法人Cは、先ほど紹介したM&Aで事業継承した医療法人をそのまま経営サポートを行っており、週1で経営会議に参加しています。

また、新たなクライアントに向けた商談に、医師として参加することもあります。「病院や医療のこと分かってるの?」と不安に思うクライアントも少なくなく、そのような時に、医師がいるということで安心していただける場合もあります。

医師としての立場、スキルも生かしつつ、コンサルティング会社ならではの経営のスキルも合わせたハイブリット型での「医療コンサル」は、松浦先生ならではの強みですね。そういえば、ビジネススキルは、どこで培ったのですか。

ビジネスの初歩的スキルは、他業種に転職した1年目に外資コンサルで培いました。そうはいっても、医療コンサルの事業の具体的な業務に関しては分からない事も多く、都度上司に相談しているという状況です。一方で、弊社では教育システムが整いつつあるため、学べる仕組みが出来つつあると実感してます。

振り返って見えた、医師とコンサルの違い

他業種という新しい扉を開かれた松浦先生ですが、まさに扉の先にあったのは、新しい文化、価値観だったことと思います。振り返ってみて、医師とコンサル、どんな違いがあると感じられましたか。

コミュニケーションにおいて、決定的な違いとしては、医師の場合、医学的な専門知識を持たない患者さんに対して、できるだけわかりやすく伝えることを重視していますが、コンサルの場合は、プロに対して、より有益な情報を提供するため、プレッシャーが大きいと感じています。

また、コンサルに必要なスキルってなんだろう?と改めて考えてみるなかで、経済産業省が出している仕事をしていくための基礎的な力を「社会人基礎力(3つの能力・12の能力要素)」として定義しているのを参考にしてみると、「医療コンサル」では、「チームで働く力」が最も重要かなと思っています。専門職をコントロールしさまざまな立場の人たちを理解して組織を動かしていく力が試されると感じています。

転職して失った「医局の出世」と「自信」

コンサルとして働く中で、新たな経験とスキルを習得し成長の日々だと思いますが、一方で失ったものはありますか?

お話いただいた通り、ビジネススキルはもちろん、知的体力や広い視野など、多くのものを得ていると感じています。病院で働くという部分は、医療コンサルとしても一部引き続き行っていますが、同じ病院でも医師としてみていたときとは、見え方や捉え方が変化したと思っています。

一方、失ったもので、もう取り返せないと感じているのは、医局での出世です。また、外資コンサル時代では非常に賢い方が多かったため、いい意味で自信を失いました。出世に関しては興味がなかったため、特に後悔はしていません。

転職のベストタイミングは自分次第
早い転職は攻めの性格、遅い転職は保守的な性格の人向き

なるほど。自身のキャリアに合わせて、メリット、デメリットを踏まえた選択が必要ですね。「D35」は、キャリアを模索する医師に多くご覧いただいているメディアですが、続いて、転職の時期や考え方について、先人としてのアドバイスをいただけたら嬉しいです!

考える上で、「職場適応速度」「プライド」「金銭的不安」「自分の専門性」と4つの軸があると思っています。若すぎると、医師としてのアイデンティティもないため、順応性は高い一方で、医師としての専門性が欠如してしまう。また、遅くなりすぎると、医師歴が長くなり、新しい業界への順応性が低くなってしまう。一方で、積み重ねた医師としての専門性が活きると考えています。

その上で、いつ転職をキャリアを決めるべきかの答えは「目標があれば、逆算思考で時期を計画的に決定」、「目標がなければ、何かやりたいかもしれないと思った時」。その時々に、目標が見えたり、見えなくなったり、つまり、前者と後者を行き来するものだと思っています。

なるほど、ちなみに、転職活動を始めてからは、どれくらいの期間で転職ができるのでしょうか。

コロナによって、オンラインで面談ができるようになり、医師として働きながらもかなりスムーズに転職活動が行えるようになりました。僕自身は8ヶ月かかりましたが、6ヶ月でもできるのではないかと思っています。

“考えること”で「美味しい人生」をおくる

本日は、リアルな松浦先生の経験、そして、分析に基づいて、医師からコンサルへの転職を解像度高くお話いただきました。最後に、キャリアを模索する読者にメッセージをお願いします。

そもそも「キャリア」という言葉は、ラテン語が語源となっていて、「職業上の地位や経歴」の意味で使われることが多いですが、本来は「仕事だけではなく、人生全般」を意味しています。

立命館アジア太平洋大学学長の出口治明先生の考え方に僕は最近感銘を受けたのですが、、その中で「種類豊富な食材“幅広い知識”で、料理の腕前“考える力”で、美味しい人生を送ろう」というようなことを雑誌でおっしゃておりました。
医療技術をとってもみても革新は著しく、今後のことは、100パーセントは誰にも分からない。ただ、「美味しい人生」は、“考えること”で、おくることができるのではと僕は考えています。


キャリアを人生と捉え、「美味しい人生」にするために、人と本と旅とで、教養を広げようとする松浦先生。医師であることを生かしつつ、医療コンサルという新たなキャリアを切り開いたその軌跡こそが力強い説得力となり響きました。初期研修で抱いた違和感を、今は医療コンサルという立場で紐解き、前身させている答え合わせのような日々、またお話を聞かせてください!本日はありがとうございました。

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