白黒つけない、自分ファーストな道を! 後編│豊田地域医療センター│湊しおり 先生

医師の新しいキャリアや働き方にフォーカスする「D35」は、実際に医師の可能性を広げられている先生にインタビューし、可能性を広げた先にある景色、そして、そこに至るまでの障壁や葛藤についてお話を伺っています。

今回は、愛知県豊田市の豊田地域医療センターで、総合診療を行う湊しおり先生にインタビューを行いました。

後編では、湊しおり先生のキャリア観についてのメッセージを伺いました。

>>前編 ”キャリア選択は消去法から決めていた、私の診療科選び” はこちら
>>中編 ”自分を尖らせるか、広げるか AI時代の医師キャリア戦略” はこちら

目次

楽しくいられるかどうかを大切にする

Antaa 西山

興味関心で選ぶのではなく、キャリアチェンジを考えられるときに自分との向き合い方は悩まれるポイントだとよく聞きます。

湊先生はどういうふうに自身と向き合い解消されてきたかお伺いさせてください。

湊先生

やりたいことがある人は、選ぶのが簡単だと思うんです。自分が医局から出た方がこの研究がしやすいとか、逆にこの研究をするためには医局に残るしかないとかって。そういう発想になる人はきっとそんなに迷うことがないんじゃないかなと思います。

私の場合、医者としてこれをやりたいとか、こういう医者になりたいみたいな素晴らしい思想があったわけでは全然なく、まずは食いっぱぐれないようにしよう。あと良心が痛まないような真っ当な働き方をしよう。迷ったらより楽しそうな方にしよう。っていう三つぐらいで考えてたような気がしますね。あまり参考にならないかもしれないですが(笑)。

Antaa 西山

なるほど。医師としてどうかというよりも、まず自分がどういう働き方やどういう人でありたいかみたいなところから形成されていくんですね。

湊先生

そうですね。私の場合、親族もみんな医者なので医者がすごい特別なものという認識が全然ないんですね、職業の一つっていう感覚でした。職業として普通に自分が辛くなく、自分を活かせる仕事の形を選ぶっていう感じです。

医師という仕事を別に尊いとも思ってないし、特別な志がなきゃ医師になっちゃいけないとも思わないし、きっとこれから医師の数は増えていくから、どんどん希少性も失われていくであろう中で、自分の個別性とか自分が生き残るための手段は常に考えていたけど、それ以外は人間関係や給与、休みの取りやすさとか、自分が嫌だなって思うものが少ない楽しそうな環境を選ぼうという努力は多分継続しているんだと思います。極力自分にストレスが少ないとか、楽しくいられるとかそういうポイントで働き方を選んで来ている気がします。

プライベートに悩みが生じるのは思うようにならないものがありうるから

Antaa 西山

なるほど。まず沢山自分と向き合っているんだろうなと思いました。

一方で、色々な医師のキャリア相談を受ける中でプライベートやライフステージの変化で、なかなかそのバランスが上手く取れないという方もいまして、自身のプライベートと、お話いただいた働くことのバランスの取り方についてはいかがでしょうか。

湊先生

それは聞かれるとあまり参考にならないんですけど、私はざっくり言うと昭和のお父さんと同じ働き方してるわけなんですよね。家事も育児もしなくて、仕事だって言えば何でも通るでしょというテンションで、働いてるわけです。当直も週に何回も行っちゃうし、記念日とかも全無視で。

Antaa 西山

そうなんですね(笑)

湊先生

たぶんサザエさんの波平さんたちは別にキャリアとプライベートの両立について悩まないですよね。職場で出世するかどうかと、職場での人間関係がいいかどうかとかでしかきっと悩まなくて。あとはフネさんかサザエさんが何とかしてくれる前提。

うちの夫はポジション的にはフネさんになるわけですけど、私が働くことには基本的に何も言わないし、私も家のことは口を出さないしというスタイルなんですよね。本物のフネさんは実は外で働きたいという願望があって子育てとの両立で悩んで断念してとかのエピソードがあったかもしれないけど、私達は、夫は外に出たくないし、子供もいないのでキャリアとの両立で悩まなきゃいけないようなプライベートがないというか。

湊先生

”プライベートとキャリアの両立の悩みがありますか”っていうのは、プライベートの方で自分の思うようにならないものがある場合にしか起きない事態ですよね。自分含めて家族の誰かの体調が悪いとか、子供が生まれて誰かが見てなくちゃいけない、誰かを介護しなきゃいけない、といった外的な要因で自分ではコントロールしきれないものがある場合に起きる悩みかなと思うんです。

それで言うと私はそれらを一切経験せずにここに至るという感じなので、よく相談されることではあるのですが、毎回上手く言えないんですよね。何とも言えないけど、その時々で大事なものを選んで、普通に大事にした方がいいと思いますと思ってるからそのまま言うんですけど。

湊先生

私の母親も医者で、私が生まれたことでそれこそキャリアを中断して、そもそもやりたかったこととは全然違うことを長いことやって、今還暦を過ぎたんですけどそういう母親を見ていて、やりたいことを何にも邪魔されたくないっていう思いはすごくあったんだと思います。母自身は子供を産んだことには全然後悔はないって言っているけど、働く女性としては思い描いていたのとは違ったのかなと。

私は、未知数なものに対して怖いとか、新しいことに踏み出すことに躊躇するっていう感覚はそれほどないタイプなんですけど、ただ子供を産むってことに関してすごく抵抗がありました。新しいことに挑戦するっていうのは、結局自分一つなんですよ。踏ん張りどころで踏ん張りきれるか、無理を重ねられるか。でも妊娠・出産は全然違って、自分の体が思うようにいかないとか、自分の来週の調子が読めないから予定を入れられないとか、自分以上に大事なものができてしまうとか、そういうのが先に立ってぜんぜん踏み切れませんでした。

Antaa 西山

なるほど。先程のお仕事の選び方でご自身にストレスがないことや心地よく過ごせる環境を大切にするという点と根っこは通じるのかなと思いました。

湊先生

子供を産むことはすごく尊いという価値観が日本にあって、勿論それを私は否定する気は全然ないですけど、その一方で働く環境では不妊治療や妊娠に伴う体調不良や、子供の発熱で右往左往しなきゃいけないっていう問題ってすごい多いじゃないですか。

でもそれを解決する手段は日本社会にはまだないわけですよね。夫婦二人で家事も育児も仕事もほんとうに半々することは実際は難しくて、結局はワンオペが問題になるけど、じゃあツーオペレーターだったらそれが解決するのかっていうとそれはそれでおそらく意見がバッティングしたり、収入や職場でのポジションで困ったりすると思うんですよね。

湊先生

何をするにしてもチームで動くなら、船頭というか、オペレーターを一人は絶対に立てないといけないけど、仕事ならそれが当たりまえにできるのに、家事と育児のワンオペになると全然違ってしまって、日本の社会も日本の男女の価値観もきっとまだ子供を産み育てるには向いてないんじゃないかって思っちゃうという(笑)

今の子供のいない暮らしが良い!とかっていう話ではないんですけど、出産から育児までの先の読めない大変さがストッパーになっている感じが私の中ではありました。

Antaa 西山

ありがとうございます。最後に湊先生からキャリアでモヤモヤしている先生方に向けて、最後にメッセージを一言お願いします。

湊先生

はい、シンプルに自分ファーストでいきましょう!って感じですね。

誰に忖度しても私の幸せな道を選んでくれるわけではないので、自分で探しそれを勝ち取るしかないと思います。自分のことを幸せにできるのは究極自分だけだし、私のことを好きな人は私の幸せを望んでくれるはずだから、我がままに幸せを追求していいと思っています。

Antaa 西山

ありがとうございました!

>>前編 ”キャリア選択は消去法から決めていた、湊先生の診療科選” はこちら
>>中編 ”自分を尖らせるか、広げるか AI時代の医師キャリア戦略は” はこちら

湊しおり|内科・整形外科
広島大学卒業。青森県八戸市で初期研修後、愛知県で整形外科専門医取得後、千葉県銚子市の島田総合病院で内科・産婦人科勤務を経て、現在豊田地域医療センター(藤田医科大学 総合診療プログラム所属)に参加。現在は総合診療・整形外科医として勤務。

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