好奇心と直感 -医師のキャリア転換と新たな挑戦- 後編│掛川東病院│宮地紘樹 先生

医師の新しいキャリアや働き方にフォーカスする「D35」は、実際に医師の可能性を広げられている先生にインタビューし、可能性を広げた先にある景色、そして、そこに至るまでの障壁や葛藤についてお話を伺っています。

今回は、現在静岡県掛川市の病院で院長を務める宮地紘樹先生(掛川東病院/院長)にインタビューを行いました。後編では、キャリアがさらに拓いていった訪問診療後について、じっくりとお話を伺いました。

>>前編 ”外科から訪問診療へ、宮地医師が辿った医療の多様な道” はこちら

目次

訪問診療転換後に気づいたこと

宮地先生

さらに次のターニングポイントはそこから6年ぐらいかな。訪問診療に転科して名古屋で2年ぐらいやって、同じクリニックが関東にもあったので転勤で関東に行って、さいたま市と千葉の松戸、そして今いる掛川とそれぞれに色々な話があるかなと思います。

今までずっと訪問診療をやっていたのが、名古屋とかさいたまとか都市部だったんですね。やっぱり地域の中のコミュニティを作るというのが都市部はすごく難しいです。人がいっぱいいるので課題も分散するし、誰がこの地域のステークホルダーなのかがすごい見えにくいので、塊を作るのが難しかったんですね。

その頃、同時に海外や他の日本の地方の医療も見に行っていて、シンガポールで見たコミュニティホスピタルが、いわゆる高齢化の医療は、今後医療ケアではなくてコミュニティケアになるという考えを持っていました。医療者を育てるだけではなく、いかに地域で支え合っていくような文化を醸成させるかというのも病院の任務としてやっている病院を見て、日本でも絶対そうなるだろうなと思いました。活動するのに、やっぱり都市部だとなかなか1クリニックでやるのは難しかったので、地方でやれるといいなと考え始めました。

宮地先生

地方は課題がすごく見やすくて、人が少ないので、そんなにいろんな人を巻き込まなくても小さいコミュニティが作りやすい環境でした。さらに、いわゆるシェアリングみたいなクラウドの技術を使って当時のノマドみたいな、いろんなところで働くことができたりとか、住居のサブスクでいろんなところに住みながら働いたりするということが、5年ぐらい前からにわかにできるようになってきました。そうした技術と医療のコミュニティを地方で作るみたいなことが、自分の中でこれから必要だろうと思ったので、東京と掛川の2拠点の生活で実践しています。

人と会うことや情報収集は東京で、コミュニティを作るのは静岡でという形でキャリアチェンジしたのが2つ目のターニングポイントですね。

Antaa 西山

キャリアとプライベートの両立の悩みはあるかという点ですが、悩みというよりはうまくやっていてすごいなって思ってました。

宮地先生

そうですね、僕の場合はもう、もはやキャリアもプライベートも融合という感じですね。結局、ルーチンで仕事をやる医者はたくさんいるなって。

例えば大きい病院だったりすると循環器の部長は、5人ぐらいいたりするんですよね。第1部長から第5部長みたいな。それが良い悪いでなく、ただ同じことやってる人がいっぱいいるから第5部長になる。でも同じことやってなければ1人なんですよね。

宮地先生

僕の場合は、キャリアをスパッと変えたというのと、医療以外のところの関わり方であまり同じようなことやってる人がいなかったというのが強みですかね。その強みを医療に還元したり、医療の運営ビジネスとして成り立つようにしていきたいと考えました。例えば企業からお金をもらうとか、いろんなイベントをやって集客力を持つといったところで、しっかりインパクトを出せれば、自分のやりたいプライベートでやりたいことを、キャリアとしても運用できているというのが今の状態です。

ただ、逆に言うとプライベートがないみたいな面はありますし、海外に行くときも半分仕事気分でこれをどうやって仕事や自分のキャリアに還元するかみたいなことを考えてしまうので、あまりプライベートという概念がないですね。あと、2拠点で家族と離れているので、その形になってもう4年ぐらいで毎週末は戻ってはいますが、やっぱりちょっと寂しいなっていうのはあります。

Antaa 西山

そうなんですね。先生はやりたいなって思うことに素直にそのまま進んでるんだなって思いました。我慢して何かをやるとかじゃなくて何かこういうことに興味あると思ったらそのまま素直にやってみるっていうパワーがすごいなって思っております。

ちなみに海外に興味があったのって医療のことに興味があったのかそれとも多様性だったりとか好奇心の部分で興味があったのかという点が気になりました。海外もターニングポイントのきっかけになっている気がしたのでそのあたりに関して、何か想いはあったりするんでしょうか。

宮地先生

はい、あります。医療とは関係ないのですが。

皆さんすごい苦労されて勉強いっぱいして大学入る方が多いと思いますが、その分、社会経験しなかったりとか、遊ぶ時間が短かったりという中で大学入りたての頃って世界観が狭かったと思うんですよね。

大学生の夏休みに海外に初めて個人旅行みたいな形で行ったときに、日本でスタンダードと思っていた基準やルールは、海外行ったら別に絶対的なものではないというのが自分の中ではすごいインパクトが大きかったです。こうやって色々な新しい世界に触れたら、自分の価値が変わったりしてもっと世界が広がるだろうという原体験が強くあると思います。

海外もそうですし、他分野に行くという、自分のコンフォートゾーンから出ることが、何か新しい自分だったり新しい価値創造につながることが未だにありますね。

Antaa 西山

めちゃくちゃいいですね。

宮地先生

今は家族で海外に遊びに行きますという時間はなかなか作れていないですが、海外に仕事で見学行って、海外医療視察ツアーみたいなのを作って仲間と行くのは年に何回かやっています。

Antaa 西山

キャリアのことはいつも誰に相談されてますか?

宮地先生

誰に相談したかな。僕が大学でこれ僕がやらないといけないことかなみたいなことで病んでいたときに、海外にいこうと思ったのは、北原先生の本を読んだことがきっかけだったんですよね。今だったら、Antaaさんでもいろんな先生の話を聞けたりとかあると思いますので、そうやって活躍してる人の話を聞けるのは情報としてはいいですよね。

相談するって難しいですよね。これって、でも、人に決めてもらうことではないですよね。なのでやっぱり自分のことわかってくれていて、なんとなく認めてくれている人がいいですよね。

相談相手として聞いてくれて、そうだねとかそういう考え方もあるよねと言ってくれる人。悩んでるときは不安だし、自分に自信もなくなっちゃったりするから自分を認めてくれて、ちょっと心理的に安心できる状態にしてくれるような人に相談するのがポイントな気がします。

すごい物知りでこれがいいよみたいなのを教えてくれることが良いときもあると思いますが、やっぱり本筋は自分で決めたい、決めるべきかなと思うので。

Antaa 西山

なるほど何か答えをくれるという人よりも自分が考えてことはあるから、それを引き出してくれたり話しやすい人が相談相手に向いてるんじゃないかっていうところですかね。

宮地先生

例えば今日みたいなキャリアの話のインタビューをしていて西山さんが、「いや、先生それ変じゃないですか」とかは言わずに聞いてくれるじゃないですか。

こうやって30分超話すだけで「あー自分はこうやって思っていたのか」とか「あそこがターニングポイントだから次こうするか」っていうのを見えやすくしてくれて、ベラベラ話をさせてくれるような人がいいんじゃないかなと思います。

Antaa 西山

いい場になって良かったです(笑)

直感を大切にする理由

Antaa 西山

宮地先生は多分悩むっていいうシーンが少ないのかなと思うのですが…。

プライベートとの両立みたいなところもそうですが、悩み始めは結構1人で悶々としてるみたいなお話をよく伺います。宮地先生の気持ちの整理の仕方や向き合い方などエピソードをまじえてうかがえますか。

宮地先生

あのときは本当に生きる死ぬみたいな状況で、自分の知り合いが家にご飯一緒に作りに来てくれたりとかしてくれてましたね。普段飲みに行ってた友達とか夜遅くまでどうしようって話したり。割と何て言うか自分を見せても大丈夫なような相手と、どうしようかみたいな話はしてましたね。

当時は、もし本当に良くなったら、家族を一番大事にしたいって思ってて、結局5年ぐらいでまた仕事やってますけど、そういうことを考える時間もありましたし、子供もずっと2人の子を1人で見てたので、主婦ってこういう感じかとかも思いましたね。

気持ちを整理して解決策をどういうふうに見出していったかについては、多分あまり参考にならないですけど、僕の場合直感なんですよね。

ほぼそういうときって直感とタイミングで、すごく嗅覚が働くというか。もう生きていくって決めるしかないじゃないですか。そういうときになんか分からないけどこれだってなるんですよね。今これを逃したら、もうこの流れ来ないとか、そういう感覚で動いている気がします。

宮地先生

だからあまり情報をたくさん集めてその中から、私に一番あったのはどれでしょうみたいなのはほとんどやったことなくて。例えば名古屋で面白いクリニックに転職したじゃないですか。そのときにはそこにしか転職の見学に行ってないんですよ。情報は何個か見ましたけど、現場は他の職場は見ていない。

まず透析はやりたくないって言って、もう何でもいいから一番インパクト強いやつ持ってきてくれって言って出てきたのがその海外展開する訪問診療の話で、それを聞いて、「それだ。それに行ってみよう」みたいな。

これは僕の考え方ですけど、比べるともしかしたらもっといいのはあるかもしれないですよ。例えば今日服を買いに行こうって言って、1軒目のお店で結構いいなと思うけど、もしかしたらぐるっと回ったらもっといいのがあるかもしれないと思うことありますよね。そこはキープして別の店に行って、もっといいのがあるときもあれば、なんだかんだあれが一番良かったなって戻ってきても、さっき別の人に買われちゃったってなったらすごい後悔するじゃないですか。

宮地先生

だから僕はその一定の基準を超えたときに、それがいいなと思ったらもうそこで決めちゃう考え方の人の気がしますね。もしかしたら今僕は一番いい選択をして、在宅クリニック入ったと思ってるけど、もっともっといろいろ探したらいいところがあったかもしれない。だけど結局それは比べるからそう思うだけで、自分がこの基準より良かったら、十分満足だって思うものがあるなら、もう比べると辛くなるだけだからそういうのと出会えたらそこで決めちゃって動いちゃうという考え方ですね。

僕はそういうふうにすることで、逆に悩まないというか、価格が高ければ高いほどいいのではなくて、これぐらいでいいなって思うものに出会えた感覚を大切にして、タイミングを逃さないことを意識するようにしています。

Antaa 西山

キャリアの悩みどころか人生の悩みの指針になるようなお話だなと思いました。

宮地先生

少しいまの話にさらに付け足すと、どういう情報が欲しいかじゃなくて、どういうことがやりたいかというのを自ら口に出せばその情報はそのうち来ると思うんですよね。こういうことが好きで、こういう人間で、こういうのが何かあればいいのにって言ってたら周りからこんなのがあったよっていう風に。そこすら表現できないとちょっと厳しくはなっちゃいますけど。

Antaa 西山

確かに、そうですね。

宮地先生

100人にこうやってやりたいと話したら、100倍近く集まるかもしれないですからね。

Antaa 西山

ありがとうございます。

では最後にキャリアでモヤモヤしている先生方に向けて、一言とメッセージをお願いします。

宮地先生

やっぱり自分がどういう人かっていうのを見極めるのと素直に受け入れると楽になるかなと思います。


いろんな優秀な人見て、僕もこの人には外科やってても勝てないなとか思ったんですよね。切断した足の血管を練習につかってとか、ここまでできんなと思ったときにこの人と一緒に勝負してたら、自分は勝てないとか自分がやりたいことをやれないみたいなことを考えました。自分がどういうことが好きでどういうことをやっていきたいのか、何を求めてるのかをいろんなところで考えてそれがわかると、進むべき道が見えてるんじゃないかなと思います。全然違うところからそういうのが降ってくることもあるので、何か迷ったら一回コンフォートゾーンから外れてみるっていうのは、何かいい刺激になるのかもしれないなと思います。

>>前編 ”外科から訪問診療へ、宮地医師が辿った医療の多様な道” はこちら

宮地紘樹|総合内科、血管外科
名古屋大学医学部卒業。 愛知県厚生連加茂病院にて初期研修後、公立陶生病院 心臓血管外科と名古屋大学医学部附属病院を経て、訪問診療クリニックに参画。その後、掛川東病院で院長になる。趣味は旅行とカメラとカレー作り。

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