専門家との架け橋をつくる|淀川キリスト教病院|柴田綾子 先生

医師の新しいキャリアや働き方にフォーカスする「D35」は、実際に医師の可能性を広げられている先生にインタビューし、可能性を広げた先にある景色、そして、そこに至るまでの障壁や葛藤についてお話を伺っています。

今回は、大阪府大阪市で産婦人科として臨床に携わりながら、様々な情報発信に取り組む柴田綾子先生(淀川キリスト教病院/産婦人科医長)にインタビューを行いました。

今回は、柴田綾子先生のキャリア・情報発信の考え方について、じっくりとお話を伺いました。

目次

バックパッカーの経験から、医学の道へ

Antaa 西山

女性医師の支援や医師の働き方、また患者さん向けに医療情報発信に積極的に取り組まれている柴田先生ですが、産婦人科医という選択をされた背景にはどのような経緯があるのでしょうか?

柴田先生

実は、私はもともと医学部には入学していませんでした。学士編入を経て医学部に入学しました。学部時代、私はバックパッカーとしてアジアを中心に多くの国々を旅していました。その旅の中で、発展途上国での女性や子どもたちの健康問題に直接触れる機会が多く、その現状に心を痛めると同時に、何か自分にできることはないかと考えるようになりました。

そこで、医師という職業に目をつけ、海外での協力活動を行うための第一歩として医学部への編入を決意しました。医学部に入学してからは、多くの臓器や疾患を学びましたが、私が真に関心を持ったのは「家庭医」や「総合診療医」という、座学ではなかなか学ぶことのできない分野でした。

柴田先生

これらの分野に興味を持ったきっかけは、様々な病院を見学した際の経験です。私は、プライマリケアを提供しながら、お産も手がけることができる医師になりたいと強く思うようになりました。特に、貧困や差別などで社会的弱者になりやすい女性と子どもを支援できる技術を学びたいと産婦人科医としての道を選びました。

Antaa 西山

産婦人科医として働いた気づきや、情報発信の背景について教えていただけますか?

柴田先生

産婦人科医としての日常は、予測が難しい部分が多いです。とくにお産は、医師にはコントロールできない領域の面白さと緊迫感がありますね。例えば、「いつお産するか?」というのは、完全には予測できないものです。そのため、勤務の拘束時間は長くなりがちですが、その一方で待ち時間でできることも沢山あります。ずっと陣痛待ちで待機していて、いざお産や緊急事態が起きたらすぐに対応というような日常です。そうした中の待ち時間を有効に活用して、私は情報発信などの活動を行っています。

情報発信の背景には、医師としての経験から感じる危機感や、間違った情報に苦しむ患者さんたちとの出会いがあります。特に、生理や妊活などの女性の健康や育児などに関するインターネット上の情報には誤った情報も多く、それに驚くと同時に、正しい情報を発信する責任を感じています。

柴田先生

また、学会や公的な組織からの情報発信が不足していることや、SNSでの公的組織からの発信の難しさも感じています。私自身は、SNSでの情報発信や、セミナー、書籍などを通して、少しでも多くの人々に正確な情報を届けられればと考えています。
特に情報発信では、大事なことは「何度でも繰り返し発信する」ことだと日々感じています。

Antaa 西山

今後のキャリアや情報発信についてお考えがあればその展望について教えてください。

柴田先生

プライマリ・ケア現場で、女性の健康を支える医療者の支援をしていきたいと思っています。人口減少に伴って分娩施設も減り、地方で産婦人科医がいなくなるところも出てくると思います。お産を多く経験する中で、そのリスクや難しさを日々感じています。妊娠・出産は100%の安全は保証できないのが現実です。しかし、それを乗り越えて、総合診療と産婦人科の架け橋となるような情報発信をしていきたいと考えています。

柴田先生

近年、TwitterなどのSNSでは医師などの医療従事者からの情報発信が増えましたが、専門家であっても間違えることもありますし、デマや悪意をもって投稿しているアカウントも出てきているのが現状です。医療系インフルエンサーが増えている中で、「この人をフォローしておけばいい」と盲目的になってしまっている人が多いのではないかと危惧しています。

SNSでの医療情報については、どのような人の投稿であっても「自分自身で情報の正確性を吟味する」必要があり、「フォロワーの多い◯◯さんの言うことが正しい」と属人的な思考になりがちなので注意が必要と感じています。

両立のコツは配分を定めたり、やらないことを決める

Antaa 西山

キャリアとプライベートの両立は難しいと思いますが、その点についてはどのように考えていますか?

柴田先生

30代は、キャリアを中心に考え、上り調子で行こうと思っていました。しかし、40代に入ってくると、自分の体力や得意不得意がはっきりと分かるようになりました。そのため、仕事と家庭のバランスを取ることの重要性を痛感しています。

自分の中で仕事と家庭の両立の割合を決めたり、やらないことを決めたりするようになりました。例えば、仕事の中でも、お産は得意としていますが、手術は得意でない部分もあります。年齢を重ねてくると後輩で手術がうまくて優秀な人もでてきて、それであれば自分は手術はサポート側に回って後輩を伸ばす方に専念したほうが向いているかなと思い、サポート側に回り、後輩を支援することを意識して行動しています。

柴田先生

また、自分の中で仕事と家庭でも「無理をしない」と決め、キャパを超えないことに優先順位を置いています。自分のなかで「やらないこと」を考えて決めたことも大きかったと思います。このように、自分のライフステージや体力に合わせて、キャリアとプライベートのバランスを取ることの大切さを痛感しています。

Antaa 西山

臨床をしながら、課題に感じたことで第1歩を踏み出すには、どうしたら良いと思われますか?

柴田先生

臨床の現場での経験は非常に価値があります。私自身、診療の中で多くの患者さんとの対話の中で、医療の現場における課題や改善点を感じてきました。情報発信などの診療外の活動については、①自分に合った方法で無理なく続けること、そして②明確な目的を設定して行動することの2つが大切だと思います。

情報発信では、得意な方法や手段を見つけることが重要です。例えば、Twitterでのつぶやきが得意な人、ブログや本を書くのが好きな人、講演を好む人など、それぞれのスタイルがあります。最初私はFacebookを利用して、自分が学んだことや読んだ本の紹介を始めました。その目的は、多くの人に自分が勉強したことについて興味を知ってもらい、新しい仕事の場やチャンスを広げることでした。このように、自分の興味や得意分野で無理なく情報発信をすることで、多くの人との繋がりや新しい機会を得ることができると思います。

Antaa 西山

最後にメッセージをお願いします!

柴田先生

現代の社会は、特に女性にとって多くの選択肢やチャンスが増えてきました。しかし、それに伴い、ライフステージの変化やキャリアの選択に迷うことも増えていると思います。
私が感じることは、社会や世間からのさまざまな圧力に負けずに、自分の価値観や目標に基づいて行動することの大切さです。40代になり、自分より若い世代から優秀な人がどんどんでてきたと感じられる中で、「自分にしかできないこと」や「独自の価値」を追求することの重要性を感じています。

柴田 綾子|産婦人科
名古屋大学情報文化学部を卒業後、群馬大学医学部に編入。群馬大学医学部卒業。 沖縄県立中部病院にて初期研修後、現在の淀川キリスト教病院に従事。

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