人生を変えるきっかけをつくるのは、日常の小さな「発信」│県立広島病院│三谷雄己 先生

医師の新しいキャリアや働き方にフォーカスする「D35」は、実際に医師の可能性を広げられている先生にインタビューし、可能性を広げた先にある景色、そして、そこに至るまでの障壁や葛藤についてお話を伺っています。

今回は、広島県で救急医と整形外科医としての勤務を両立して行いつつ積極的な情報発信もしている三谷雄己先生(広島大学救急集中治療医学所属 県立広島病院/整形外科)にインタビューを行いました。

今回は、三谷雄己先生のキャリアのあゆみと”発信”することの考え方について、じっくりとお話を伺いました。

目次

整形外科志望から一変し、救急科を進路に。きっかけは西日本大豪雨

Antaa 西山

本日はありがとうございます。

「踊る救急医」のSNSアカウントでもお馴染みの三谷先生ですが、救急医を目指されたきっかけやそれまでの経緯などを伺えればと思います。
まず初めに「救急医」という診療科を目指すことにしたきっかけを教えてください。

三谷先生

実は、学生時代は、整形外科を志望していました。僕が高校生のときに、怪我をしてスポーツドクターの先生にお世話になった患者としての体験から、整形外科に憧れて医師を志望し始めたので、医学生や初期研修医になってからも引き続き整形外科の研修を積極的に選んでいました。

そこから一転し、救急科を目指すことになるターニングポイントは、初期研修の頃に働いていたマツダ病院にあります。

三谷先生

マツダ病院は広島に位置する病院なのですが、僕が勤めていた時期に、西日本大豪雨がありました。まさに土砂崩れや水害が起きた現場からすぐ近くの病院だったので、多くの患者さんが救急外来に運ばれてきました。

広島大学などの近隣の病院から救急医の先生がヘルプで来てくださり、他科の先生達では手が出せないようないろいろな部位の重症外傷をマネジメントし、一人ひとり素早く治療していく姿を見たとき、すごい診療科だなと憧れを持ちました。

その後、僕は最後まで専門科を救急科と整形外科で迷っていたのですが、いろいろな先生の話を聞いていく中で、心臓だけを診るだったり、骨だけを診るだったり、といったスペシャリティを持つのではなく、まずは全身を診れるようになりたいと考えるようになり救急科をやってみようと思いました。

Antaa 西山

なるほど。天災がターニングポイントになったのですね。一方で現在は、整形外科の現場も診ていらっしゃると思うのですが、気持ちの片隅には、整形外科もやりたいという思いがあったのでしょうか。

三谷先生

いえ、そうではなく、あくまでも救急科を目指しているときは、その道一本でいくんだと思っていました。

現在、救急科だけでなく、整形外科として専門医の習得を目指して働いているのは、運よく職場にロールモデルとなる救急医と整形外科の両方の専門医を持っている先生がいらっしゃったことが要因です。救急医として患者さんに関わり治療をする。さらにそれに加え、もう一歩先の整形外科的な手術だったり、骨折の手術後のリハビリテーションなどの介入をしている姿を見て、自分も同じように、もう一歩進んだ管理や治療ができるようになっていきたいなという気持ちが増していきました。

「初めから救急科と整形外科の両立を考えていたのですか」と聞かれることはあるのですが、結果として繋がっていったということです。

人生を変えるきっかけをつくるのは、日常の小さな「発信」

Antaa 西山

天災やロールモデルとなる先生との出会いなどが今のキャリアのきっかけになっていたのですね。一方で、きっかけがあっても、選択をするには、自分の判断が重要だなと話を聞いていて思いました。直感で決めていくのか、それとも、周りの人に聞いたり調べたりする中で考えを整理していくなど、三谷先生はどのような基準で判断を進めていくのでしょうか?

三谷先生

診療科を決めるときも然り、自分が発信するときも然りですが、やはりやってみたいという気持ちやわくわくする気持ちがあるかどうかが、一番強い引き金になっていると思います。

また、少し話はずれますが、これまでの経験として「伝えてみる・発信をしてみる」ということの大切さをとても実感しています。

三谷先生

もちろん自分自身も「伝えてみる・発信をする」以上、それ相応の準備をしておくというのは前提になるのですが、目上の人や後輩など関係なく、自分が興味を持った内容を伝えたり、発信したりし続けていると興味を持って聞いてくれたり、分からないことを教えてくれたり、時には背中を押してくれたりする人が場面、場面で現れたりすることがあるのです。

その結果、運よくいろいろなきっかけを掴むことができていると感じていて、決断をするときの支えになっていると思っています。なので、興味を持ったことは、今もなるべく口に出して言うようにしていますね。

Antaa 西山

よいきっかけや出会いが巻き起こるように、伝えることや発信することで種まきをしているのですね。素敵な活動だなと思いつつ、声をあげるなど、新しいことに挑戦するときに、なかなか踏み出せない人もいるかと思うのですが、三谷先生はそういう不安はないですか?

三谷先生

そうですね、大学生のときに熱中していたダンスの影響が大きいかなと思います。

ダンスは、音楽がかかって即興で前に出てアドリブで踊るシチュエーションや大会などが多いのですが、その時の緊張感、自分の表現に対する賛否を受け止めるということ、それらを経て、メンタル的に鍛えられた部分はあると思います。

情報発信によって救われた経験から、今度は自分が発信のバトンを受け取る

Antaa 西山

さきほどから「発信」というワードが度々話に上がっていますが、三谷先生といえば積極的にSNSやブログなどでの情報発信も行っていますよね。情報発信を始めてみようと思ったきっかけはあったりするのでしょうか。

三谷先生

ブログを始めたきっかけは、僕が「USMLE」というアメリカの医師国家試験の勉強を始めた頃にあります。

当時は、ウェブ上にも今ほど情報がなく、どの参考書を使って勉強したらいいのか、どれくらい準備したらよいのかなど、分からないことだらけでした。さらに、こういった試験は、まとまった時間のある学生が受けることが多く、学生であれば、学生同士で情報交換をしながら取り組めるかと思うのですが、僕の場合は初期研修になってから始めたので、働きながら勉強するコツがなかなか掴めずにいました。

三谷先生

そんななかで、僕にヒントをくれたのが、ウェブで見つけた働きながら試験に取り組まれた先生たちの経験談の発信でした。隙間時間の使い方や効率的に学習ができる教材などを知ることができ、結果として無事試験に合格することができました。

ウェブ上での発信がとても参考になり、自分も良い結果を得ることができた。そこから、今度は、きっと自分のように挑戦する人に向けて、自分も感じたことや気がついたことを発信してみようと思い、少しずつ始めていきました。

無数の情報が錯綜するなかで、大事なのは「誰が」発信しているのか

Antaa 西山

試験のために情報収集をしていたという経緯からだったのですね。

では、少し深堀りするような形になるかもしれませんが情報発信にあたって心がけていることなどはありますか。

三谷先生

よく発信をするときに、「ペルソナ」という想定読者をイメージしながら発信しなさいという話があるのですが、僕の場合は1、2年前の自分をイメージして発信をしています。

例えば、医師としての経験値が高い方や、権威ある方が書く方が、レベルの高い発信ができるかもしれない。ただ、レベルが高すぎると、読み手によっては、上手く自分の中に落とし込めないときも多々あるのです。

つまずくポイントというのは、やはり1、2年先の先輩が一番分かったりするものなので、少々荒削りだったとしても、自分の成長過程やその時感じていた疑問点、経過を経て感じたヒントになりそうなことなど、読み手に寄り添った情報を発信していきたいなと思いながらやっています。

Antaa 西山

「自分が通った道と同じような道を通ってくるであろう人たちに向けて」という軸をもって、発信されているのですね。

三谷先生

そうですね。ただそれだけではなく、最初に「発信を心がけている」とお話させていただいた通り、自分自身も今直面している臨床に対する疑問や感じた課題を解決していきたいという思いも根底にあります。

改めてになりますが、僕はあくまでも”医師”であって「医師として自分がレベルアップしていくために」ということが発信する上での大前提になります。例えばその部分を度外視し、ここにニーズがあるだろうから、この内容で発信していこうといったマーケティング思想でやっていってしまうと、本分とはずれて、自分の望む方向とは違うところへ行ってしまう。

特に昨今は、無限にそういった情報があるなかで「結局どういう人が発信しているか」がとても大事かなと思っています。僕の場合は「臨床医」ということ、だからこそ、発信に興味を持ってくれる人、話を聞いてみたいと思ってくれている人がいると思うので、その軸から外れないようにしないといけないなと思いながらやっています。

Antaa 西山

ブログやSNSなど、ウェブ上でコミュニケーションをするには、おっしゃる通り、無数に情報があるなかで、この人と話がしたいと思っていただけるような「誰が発信しているか」が大事だということ、改めて理解できました。三谷先生の場合は、それが「臨床医」というところになるのですね。

キャリアとプライベートのシームレスな繋がり

Antaa 西山

話は一変し、次のトピックにいこうと思うのですが、キャリアを考える上で、見過ごせないのものとして「プライベート」があると思っています。三谷先生のキャリアとプライベートの両立やプライベートについての考え方などを伺えればと思います。

三谷先生

まず、キャリアとプライベートについての考え方の部分ですが、僕が行っている「臨床医の仕事」も「発信や勉強会の活動」もどちらも自分が好きな活動なので、キャリアの一部でもあり、仕事の一部でもあり、一方で、プライベート的な趣味でもあるといった感覚でいます。

その前提で、プライベートはどうか?というところについては、今は自分自身が新しいものを作りたい、新しいことやってみたいという気持ちが強く、その活動の中で新しい繋がりが増えていったりするのですが、ふと立ち止まって考えたとき、学生時代にダンスをしていたコミュニティや同じ病院の同僚と、飲みに行ったり、遊んだりといった馴染みのあるメンバーで過ごす時間が減ってきてしまっているという側面もあります。

三谷先生

実際に自分の回りの人に「三谷、最近忙しいもんねー」みたいな感じで誘われなくなってきていて、しかたないと思いつつ、寂しいなと思っています。

そこで、最近の僕なりの工夫としては、例えばプライベートで会いたい人を自分が運営している勉強会に講師や受講者として呼んでみたりと、自分の活動の輪の中に、友達だったり、会いたい人を集めちゃうと仕事をしながら、会いたい人にもあえて、こんなにハッピーなことはないので、そういうこともしていますね(笑)

Antaa 西山

「踊る救急医」として、「ダンス」と医療が繋がる日もくるのでしょうか?

三谷先生

実は、ちょうど、もともとお世話になっていたスタジオで、高齢者向けのダンスプログラムに医療監修みたいなことをやり始めていたりします。

ゆくゆくは、その延長で、学生時代から思っていたことでもあるのですが、「プロスポーツとしての側面のダンス」であったり、「医療・リハビリとしての側面のダンス」にいつか関われたらいいなと思っています。

三谷先生

「プロスポーツとしての側面のダンス」というのは、近年パリオリンピックで正式種目に認められたこともあり、ダンスがプロスポーツとして広がってきていて、おそらく今後ダンスのプロスポーツとして認知度が広がり、競技人口も増えていくと考えています。ただ一方で、ダンスはまだまだ、サッカーや野球ほど専門のスポーツドクターはいないというなかで、僕はスポーツドクターの資格も持っているので、いつか自分が整形外科としていろいろなことができるようになってきたタイミングで、スポーツドクターとして、プロのダンサーのサポートに入ってみたいという願望があります。

そしてもう1つの「医療・リハビリとしての側面のダンス」では、救急科や整形外科をしていると、事故をしてしまい、命は助かったけれど、不自由が残ってしまい元の生活までは、なかなか戻れないという人を多く見ます。そんな人たちにとってリハビリは、とても大事な要素なのです。リハビリをよりよいものにするために、ダンスを取り入れることも挑戦したいと思っています。

キャリアを展開するヒントは「自分の興味の少し先にいる人」

Antaa 西山

今日は、専門科の選択の話から、そこにつながる発信の話、さらにはプライベートや今後の展望まで、三谷先生ならではのキャリア展開を伺うことができました。

最後に、いま「キャリアで一歩踏み出したい」と悩んでいる若手の先生に向けて、三谷先生から熱いメッセージをいただけますでしょうか。

三谷先生

悩んでいるときには、「自分の興味の領域の少し先にいる人を見つける」ということがすごく大事なことだと思っています。

実際に僕自身も臨床である救急・集中治療・整形、それから臨床以外にあたるセミナーやウェブ上での発信においても、それぞれのカテゴリー別に、「この人のこういうところがすごいな」と憧れたり参考にしたりしている人が必ずいます。少し自分の先を行く人を見つけるというのを常に意識的にし、アプローチしてみることで、徐々に道が開き始めるんじゃないなかなと思います。

そして、僕もいまは救急医と整形外科の道を歩んでいる段階ですが、このまま進んでいき、いつかは自分自身も、誰かにとっての「この人のこういうところがすごいな」と思われる存在になりたいと思っています!少しでも興味を持ってくださった方は、気軽に声をかけてもらえると嬉しいです。

三谷雄己|整形外科・救急科
広島大学医学部卒業。マツダ病院にて初期臨床研修終了後、広島大学病院救急集中治療医学に入局。県立広島病院、広島大学病院、JA広島総合病院での救急科としての勤務を経て、現在県立広島病院で整形外科として従事。整形外科として勤務する傍らで救命救急当直や病院前診療(ドクターヘリ)などの業務も担当。ブログやSNS等で自らの臨床医としての経験をもとに積極的な情報発信を行う。

このページをシェアする
目次