板橋発でエクステンシビストを育てたい 後編│板橋中央総合病院│安本 有佑 先生

医師の新しいキャリアや働き方にフォーカスする「D35」は、実際に医師の可能性を広げられている先生にインタビューし、可能性を広げた先にある景色、そして、そこに至るまでの障壁や葛藤についてお話を伺っています。

今回は、板橋中央総合病院で、救急総合診療科に従事する安本 有佑 先生(板橋中央総合病院/救急総合診療科)にインタビューを行いました。
後編では、安本先生の今後の展望についてじっくりとお話を伺いました。

>>前編『整形外科志望の研修医が総合診療プログラム責任者になるまで』はこちら

目次

板橋発でExtensivistを育てる

Antaa 加藤

この春から、貴院では総合診療内科が救急総合診療科と総合内科の2チーム構成になりました。安本先生の今後の目標や展望をお伺いできますか。

安本先生

救急総合診療科の活動をどのように拡大していくかについて考えています。その中で特に重要だと思うのは、自分たちがしていること、大切にしていることを言語化することです。自分達のパーパス、ビジョン、ミッション、バリューを明確にし、みんなで共有することが大切だと感じています。
それらの定義は様々ありますが、私の中でのパーパスというのは、組織にとって普遍的で変わらない価値観であると考えています。私たちのパーパスは「困っている人を助ける」で、その対象は患者さんだけでなく、患者家族、職員、病院の外で入口を探している人、道端で倒れている人たちも含みます。そして、ビジョンはこれから達成する目標ですが、「板橋から、安心し住みたい街を作る」を掲げています。私たちが働く板橋はもちろんですが、板橋だけではなく、それぞれが進む土地を「安心し住みたい街にすることで、日本全体が豊かになるのではないかと考えています。その足がかりとして、まずは自分達の働く板橋区を「安心し住みたい街」にしたいと思います。

Antaa 加藤

板橋発で全国に普及をということですね。

安本先生

そうです。あと、日本ではまだ広く普及していない概念ですが、「エクステンシビスト(Extensivist)」というモデルがあります。米国では「ホスピタリスト(Hospitalist)」というモデルが爆発的に増加しましたが、日本でも少しずつホスピタリストとして働く医師が増えています。
そのホスピタリストから派生した形で、エクステンシビストというモデルが生まれました。板橋で育てる総合診療医には、エクステンシビストとしての活躍を期待しています。エクステンシビストとは何か。定義は種々ありますが、私が考える一つの解は、「患者さんにとって最適な医療・ケアを受ける環境を判断できる医師」のことであり、これは私たちのビジョンにも繋がります。

安本先生

例えば、急性期病院に入院している患者さんが、急性期病院でなければ治療が出来ないと判断され長期間入院することがありますが、実際には自宅で療養できるケースが多いです。医療者の視点や判断力が足りないがために、患者さん本人や家族が「家に帰りたい」と望んでいるにもかかわらず、それが叶わないことが多々あるのです。私たち板橋中央総合病院は急性期病院ですが、近隣の在宅診療所や地域包括ケア病棟とも連携し、専攻医たちにはそこでの経験を積んでもらった上で、患者さんにとって最適な環境を提供できるようにしています。

Antaa 加藤

国の方針、そして板橋の地域医療を見据えたとても大切な取り組みですね。

安本先生

私たちは「Patient Journey(患者の旅路)」という考え方を大切にしています。患者さんの人生における急性期病院での治療期間は非常に短いものであり、その前後をどのように過ごすかが重要です。患者さんの旅路全体を見据えた医療を提供するためには、急性期の治療だけでなく、自宅や他の施設でのケアも考慮する必要があります。そのような視点を持った医師がたくさん育てられればいいなと考えています。

安本先生

例えば救急外来での診療においても、ただ救命・蘇生するだけでなく、Patient Jouneryを意識した上では、入院適応がある患者さんを敢えて家に帰すという選択肢も挙がって然るべきだと思います。高エネルギー外傷など救命センターで診られるべき患者さんも多くいるということが前提ですが、これから高齢化が進む中で、市中病院での救急診療は、総合診療マインドを持っている救急医、または救急スキルを持った総合診療医がやった方がいいんじゃないかなっていうのが、今の僕の中での考えです。

安本先生

各専門家の先生方、特に外科系の先生方の場合、最高の技術を持っているというのは素晴らしいことですし、それを目指していくのはとても重要なことだと思っています。しかし、循環器内科などの技術が求められる診療科は別かもしれませんが、手技が多くない内科系の医師は、ただ診断し治療するだけでは、不要になると考えています。「あなたは肺がんです。肺がんの治療法はこれです」というようなことは、もはやAIで代替されることも普通になるでしょう。ですから、単に治療の選択肢を提示するだけでなく、その人の価値観や人生を見据えた上で、どのような治療法を選択するかを判断できないのであれば、医者が介在する意味がなくなり、人が治療する意義も失われてしまうのではないかと感じてきています。

まず採用する側の自分たちが真摯であること

Antaa 加藤

「エクステンシビスト」を育てることを目標に、貴院の医師採用としても仲間を募集中だと伺っています。実際に採用活動を行ってみていかがでしょうか。

安本先生

救急総合診療科が新しくなったこの春からは、初期臨床研修を終えた直後の先生ももちろんですが、他科からの転科、リカレント教育をより積極的に進めていきたいと考えています。実際に、今年他院の救急科から来てくれた専攻医の先生は、自身のスキルを発揮しながら、総合診療を学び実践することで、周囲にも良い影響を与えてくれています。

安本先生

その中で心がけていることは、私たち自身が行っていることに対して誠実でいることです。これから何をしたいのかというビジョンについては必ず説明し、診療科で守ってほしいルールも皆さんに共有しています。例えば、他人の時間を守る・挨拶をするなど、社会人として基本的なこともありますが、チーム医療を行う上で絶対に守ってほしいことについてもお話しします。
そして、スタッフたちに必ず守るよう伝えていることがあります。
第一に、他施設について絶対に悪く言わないこと。第二に、自分たちのことを過大にプレゼンするようなことはしないようにという点です。

安本先生

そうですね。
みなさんキャリアに迷われているのだとは思うのですが、一回の面接だけだと、どうしてもそのときの印象である程度判断せざるを得ないという難しさも感じていました。たとえば面接後に食事を共にしながら、関係を築くことなどができるといいのかもしれませんね。
Antaa に紹介いただいた先生方は、キャリアに迷いながらも芯のある方々が多く、しっかりとコミュニケーションをとることができたことが、「いつもと違うぞ」と感じました。
とはいえ、条件に完全に合致する人ばかりを採用しようと思っても、完全に一致する人は少ないと思います。また、条件面が先行してしまうことが多いのも現状です。自分のキャリアを描ききれていない人でも、真摯で誠実に、同じ方向に向かって一緒に取り組んでくれる方がいれば、ぜひ一緒に働きたいと思っています。

Antaa 加藤

本日はありがとうございました!


安本 有佑|救急総合診療科 医長
鳥取大学卒業。松江市立病院にて初期研修後、練馬光が丘病院 総合診療科で研鑽を積む。同院チーフレジデントを経て、板橋中央総合病院 総合診療内科に赴任し、2020年より総合診療プログラムディレクターを務める。2024年より現職として、病棟業務、救急診療、外来診療、後任の指導に従事。

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